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第1070話

大きく口を開けてあくびを1つ。 印刷室には自分しかいないので出来る事だ。 そういえば、“咳をしても一人”なんて句があるが、それは現代も同じだなとぼんやり思う。 いや、現代は“咳をするから一人”なのかもしれない。 とにかく、孤独は寂しい。 そんな人間の気持ちは今も昔もないらしい。 刷り終わったプリントに人数を書いた付箋を張り付け、また1クラス分を刷りあげる。 遥登なにしてっかな 弟といるから泣いてねぇだろうけど、感染者が増えてきてボランティアも行けねぇみたいだしな 三条の暮らす町やその近隣で急に感染者が増えた。 三条やご家族が心配だ。 生活圏の近い田上も。 だが、なにもしてやれない。 してやれたとしても、会わないという事だけだ。 無力だ。 人間は神じゃない。 人や生き物を命を救えたって万能な神なんじゃない。 それを殺すのもまた人間だ。 ただ、それを知っている事が大切だとも思う。 無力さを痛感している方が人間らしくいられる。 弱さを知って、強くなれる。 強くなる方法が分かる。 優しくなりたいから強くならなければならない。 あの子を守る為に。 自分の様なクズでも守りたい存在がいれば、襟を正せる。 あの笑顔は偉大だ。 タイピンに触れ、あと数時間頑張る気力を貰う。

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