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第1073話

正直あたたまりきっていない炊事場は足が冷えるので移動したい。 「カメラ動かす。 ちょっと揺れるぞ」 『はい』 それでも、酔わないように視線をズラしたのを確認してから定位置へと移動する。 案外画面の揺れで酔ってしまう人は少なくない。 一点を見詰められず、正面を決められないからだ。 言葉で説明したら簡単な事なのだが自身の力でどうする事も出来ない。 人間の身体は面白い。 そして、ついでにカメラに写らない様に欠伸をした。 疲れてると勘違いさせてしまえば、心配の種になってしまう。 優しい恋人が、これ以上心を病める必要はない。 「お湯入れてくる。 待っててな」 『はい』 フライパンとカメラだけ先に机に置き、また戻っていく。 カップ麺に湯を注ぎ、漸く腰を下ろした。 「フライパンのままで悪い」 『暫くあったかいまま食べられて良いじゃないですか。 俺の事は気にしないでください』 どんな相手にも礼儀は大切だ。 例え、家族や恋人であっても。 どんなに親しくなっても相手を思いやる事は忘れてはいけない。 だけど、今日は三条の言葉に甘えさせてもらう。 「ありがとな。 いただきます」 手を合わせ、食事を開始した。 三条と食う飯は美味い。 それが自分の作った物だとしても、いつもと味を変える。 ラーメンが出来上がる3分待たずして、チャーハンを食いきってしまいそうだ。 はふっと熱々のそれをまた口にする。 『あの…俺もお菓子食べても良いでしょうか』 「あぁ。 勿論。 沢山食え」 嬉しそうな顔でどこからかお菓子を取り出し、もぐもぐと頬張りはじめた。 「美味そうに食うな」 『美味しいです』 画面の中の三条はにこにこしなからお菓子を口に運んでいる。 そりゃ、自分ばかりが食べていたら口寂しくなって当然だ。 それにしても、美味そうに食うな。 「美味いか」 『はい。 あの、あんまり見ないでください…。 恥ずかしいです』 「何言ってんだ。 遥登、恥ずかしいの好きだろ」 『咀嚼の話です…っ』 「かわい」 否定はしねぇのかよ

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