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第1075話
画面の中の恋人は涼しい顔をしてマグカップを傾けている。
あの腹筋には敵わないよな…
あの筋肉だもんな
簡単に思い出せる裸体。
そして、情事。
『はる…』
掠れた声が名前を呼ぶのまで思い出す。
「っ、」
ハッと我にかえり、いやらしい想像をお茶と一緒に飲み込んだ。
『ん?
どうした』
「なんでも、ないです…」
そもそも筋肉が付きやすい等の体質が違うのは理解している。
部谷と学校の往復だけの生活であの身体だ。
本ばっかり読んでるのにあの腹筋だ。
解っているけど、もっと頼よって貰える男になりたい。
落ち込む事も多くなってしまったけど、それでも、長岡が大変な時に受け入れるだけの余白が欲しい。
いつも色んな物から守ってくれる恋人を同じように守りたいんだ。
その為に筋力をつけ、学力をつけ、大きくなりたい。
「腕立ても、します」
『構わねぇけど。
疲れてねぇか』
「大丈夫ですっ。
今度こそ、しりとりで勝ちます」
お互い、もう1度口を湿らせてからカメラを床に置いた。
「しりとりの“り”からで、俺からでも良いですか」
『いいぞ』
「じゃあ、李下之冠」
『流汗淋漓』
「う……、流血淋漓」
『最初からトばしてんな。
あと、“り”で終わんのねぇよな。
じゃ、流汗滂沱』
頭をフル回転させても、正直次に何がくるか予想も出来ない。
今みたいに綺麗な流れで言葉が続いたと思えば、意味は?と難しい四字熟語を言ったり、緩急が大き過ぎる。
それでも、必死に食らい付く。
少しは成長したところを見て欲しい。
というか、見せ付ける。
『椽大之筆』
いけそう…
頑張れ、腕…
「泥中之蓮」
『寸善尺魔』
「正宗さん、大好きです…っ」
きょと、と不思議そうな顔をした長岡は次の瞬間とわりと破顔させた。
『く……はは…』
腕立ての体勢からぺたんと胸を床に付け、細かく肩を震わせる。
すごく恥ずかしいがどちらとも勝った。
はぁ…と深く息を吐きながら三条も床に突っ伏した。
何分していたのか分からないが腕がしんどい。
だけど、言ったんだ。
『たまんねぇな……』
「俺の勝ちです」
『どっちも負けた。
くく……大好きか』
おかしそうに、嬉しそうに笑う恋人の顔は何よりも綺麗で愛おしくて、大切で。
それが、たまらなく嬉しい。
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