1080 / 1502
第1080話
ぷくぷくの頬を潰すと、綾登は嬉しそうに笑った。
「へっへぇ」
「ほんと可愛いな」
「かーい?」
「うん。
可愛い。
ぎゅーってしちゃうぞー」
「きゃぁぁ」
抱き締めながら身体を揺らすと、小さな手が襟刳りを掴む。
何枚かの服は襟が伸びてしまったが部屋着なので構わない。
それに、何処へ出掛ける訳でもないので、あまり気にしていない。
「ぎゅー」
「もっかい?
良いよ。
ぎゅーっ」
「うへっへっへ」
ご機嫌な末っ子は嬉しそうに首に抱き付き、兄をよじ登ろうと足踏みする。
だが、すぐに興味は玩具に逸れてしまった。
「ぼーる」
あれ、と最近蹴って遊べるようになったボールを指差した。
出来る様になると遊ぶのが楽しくなる。
そのわくわくにとり憑かれた綾登はスイッチが切れるまで遊んで甘えて兄を満喫する。
だから次男は大怪獣と呼ぶ。
「おーし。
いくぞー」
ポンッと軽く投げると、ころころ…と小さな足の方へと転がる。
それを蹴ろうとした足は空振り、カーペットの上にぽてっと尻餅をついた。
一瞬驚いた顔をしたがすぐにケラケラと笑いだし、とてもご機嫌な様子。
怪我がない事は勿論、綾登が楽しいに越したことはない。
「怪我なくて良かった。
転んでも楽しいな」
一緒になって笑っていると母親がマグに麦茶を入れて持ってきてくれた。
「ちゃーちゃ」
「うん。
飲もうな」
「あーと」
ストローを使ってゴクゴク飲むと、ボールを手に膝によじ登ってきた。
「ぼーる!」
「うん。
しよう」
まるで麦茶がエネルギーになったのかの様に、綾登はそれからひたすらボール遊びをした。
ともだちにシェアしよう!

