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第1090話

カーテンを少し開けるとそれだけで冷たい空気が頬を撫でる。 霰がコツコツと窓を叩きはじめた。 どうりで寒い筈だ。 ベッドに肘を抱えて座り、ぽけっと空を眺める。 そうしている間に日付は静かに変わた。 30分程前まで通話をしていた長岡はいつもより早く寝てしまい1人でその日を迎える。 もうクリスマスか 毎年正宗さんと過ごしてたから、なんか家にいるの違和感あるな ほんの4年の事だ。 たった4年が"当たり前"になった。 その"当たり前"が嬉しかったのに。 足元の影の濃さと大きさを改めて知らしめられる。 影があるから光があると分かる。 それはそうだが、光が恋しい。 長岡が恋しい。 足元に置いた文庫本をパラパラと捲ってみたり、悪戯に時を過ごす。 こうして1人で頭を整理する時間が必要なのだが、今はぐるぐるとするだけで整理すら出来ていない。 情けない話だが長岡がいないと日々をどう過ごしていたのか分からなくなってしまった。 弟達がいてくれるお陰で楽しく過ごせているがこれが以前と同じ過ごし方かと問われれば返答に困ってしまう。 女々しい自分に溜め息を飲み込む。 そんな時、傍らのスマホがメッセージを知らせた。 『メリークリスマス』 恋人からのメッセージに垂れた耳はぱっと立ち上り、尻尾が揺れる。 なんて現金なんだと笑われたって良い。 恋しい人が笑ってくれるなら化道にだってなれる。 すいすいと画面をなぞり、紙飛行機のボタンを押そうとしてその手を止めた。 あれ… なんで、ビデオ通話の画面が真っ暗なのに連絡がきたんだ…? 画面の向こう─長岡の部屋は真っ暗なままだ。 ベッドが動く音もしていない。 いや、それどころかベッドは乱れてすらいない。 たった一言のメッセージ。 たった一言だけ。 根拠なんてない。 ないが、自信に似たものがある。 正宗さん、もしかして 窓を開けると外の空気で鼻の奥がツンとする。 だけど、それよりも…… 「…っ!!」 そこにスマホを弄る人影を見付けた。 小さな画面の反射だけがその人を縁取る。 三条は部屋を飛び出した。 コートを手に道路に出ると長身の男がコートを翻した。

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