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第1091話

先を歩く人は神社に足を踏み入れると、ふと振り返った。 マスクをしていても分かる綺麗な顔。 柔和な目元。 会いたかった長岡だ。 「正宗さん、あ…会いたかった、です…」 「俺もすげぇ会いたかった」 隣家の明かりも確認せずにその身体を抱き締めた。 そして同時に抱き締められる。 長岡のにおいだ。 それと、冬のにおい。 いつから居たんだろう。 コートが冷たい。 カーテンを開けた時に覗けば良かった。 そうしたら、こんなに冷たくならなかったのだろうか。 風邪でもひかせてしまったら心配どころの話でない。 あぁ、そっか 正宗さんもこんな気持ちだったのか すごく、すごく心配をさせてしまった。 ウイスルの事など忘れて、すり…と首に額を擦り付けた。 「それにしても、よく分かったな」 「なんとなく…いるかなって思いました。 でも、なんでいるんですか。 寝るって…」 「あー、嘘吐いて悪い。 遥登が会いに来てくれた日だろ。 今日は俺の番」 優しい声。 ぽん、と頭に触れる冷たい手になんだか泣きたい気持ちになった。 会えて嬉しい筈なのに泣きたいなんてどうしたんだ。 泣いてたら綺麗な顔が見えない。 話も出来ない。 勿体ないだろ。 ぐっと堪えて、細い腰に身体に腕をまわし抱き締める。 頭を撫でる手が気持ち良い。 長岡だと分かる手が嬉しい。 「気付いて貰えなきゃ連絡したよ」 「こっちも、感染者増えてるのに…」 「サンタは大丈夫なんだろ」 「髭、ないですよ」 「朝になりゃ生えてる」 「白くないです…。 それに、太ってません」 「中年太りは勘弁だな。 遥登に格好良いって言って貰えねぇだろ」 「どんなになっても沢山言います。 格好良いですから」 くすくすと笑われても離れたくなかった。 そんなに抱き締めたら長岡が痛いとか考えられなくて、ただただ離れたくないと口にしない様にきつくくっ付いたままでいる。

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