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第1095話

まだグズ…と鼻を鳴らしながら、それでもしっかりと指輪の嵌められたら指を眺める綺麗な目。 この目に捉えられてから4年が経った。 いくら時間が経とうと、その目はいまだ自分を捉えて離さない。 「これ………本当に高そうです…」 「給料3ヶ月分だからな」 「3ヶ月……分…」 くりくりした目が驚きで更に大きくなった。 三条には失礼だが面白い顔だ。 「そ、え……3ヶ月…」 「くく……く…、ははっ」 「え、本当に…? 嘘なんですかっ」 長岡は綺麗に揃えられた眉を下げて楽しそうに笑っている。 その顔は、この世のなにより美しくしあわせそうだ。 そして、目の前の恋人も。 「秘密」 「……3ヶ月って…だって……」 目指す職業の大まかな賃金位知っているか。 さっきまで鼻をグズグズさせていたのに、今度は驚きに変わった。 くるくる変わる表情がとても三条らしい。 「どっちだって気にすんな。 俺の我が儘だって言ったろ」 「我が儘じゃないです。 こんなに嬉しいのに…。 あの、なんて言えば伝わるのかわからなくてすみません…。 でも、嬉しいです。 しあわせです」 目に見えない気持ちを、言葉にしなければ伝わらない心を、三条は必死に伝えようとしてくれる。 それだけで、その気持ちは十分に伝わってくる。 方耳からマスクの紐を外し、濡れているそこを袖で拭い僅かな肉を動かした。 三条は一瞬だけ肩を跳ねさせたが拭われるだけと分かるとすぐに大人しくなる。 「俺の残りの人生全部やるから遥登のこれからをくれるか?」 「俺の、これから…」 「そう。 俺の残りの人生じゃ駄目か?」 「駄目じゃないっ」 湿ってしまったマフラーに顔の半分を埋もれさせ、です…と付け加えながら今度は照れた。 本当に豊かな子だ。 無理に飾り立てず、きちんと自分の心に素直で、好きになったのはそういう子なんだと痛感する。

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