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第1114話

「はー、うめぇ」 熱々のおでんを口に入れると、部屋だってあたたまっているのに吐き出す息が白く見えるようだ。 辛子も味にアクセントを加えてくれていて美味い。 ゆず胡椒も爽やかで美味い。 『あの…熱いのって、どうやって食べてるんですか?』 「いや、普通に…」 そこまで口にして、はたと止める。 その“普通”が自分と違うから、三条は熱い物を早く食えないのか。 だが、改めて食い方を聞かれると難しい。 食べ方は教わるものではない。 無意識の物を伝えるというのはなんとも難題だ。 「あー、そうだな……舌先で食わねぇとか?」 『奥で食べると、間違って飲み込んじゃいますけど…』 「真剣に悩んでんのか」 『真剣…まぁ、半分は。 でも、もう半分は興味です』 「食い方を説明すんのは難しいな。 ただ、舌先を避けて中程で受け止めると案外いける気がする」 『今度やってみます』 「でも、上顎の火傷して舐められんの好きだろ」 画面越しでも顔が赤くなるのが分かる。 マゾいというか性的な事に興味津々というか。 「ま、それも遥登の個性だろ。 俺の中では、遥登は熱いの早く食えねぇの。 遥登はコンプレックスに思ってるかもだけど、俺はそういうところも含めて好きだ。 大切にしろ」 大人の悪い所を出してしまうが、それも半分本音。 自分で思う短所は、俺の好きな長所かもしれない。

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