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第1116話

「ゆーと!」 「どうした」 「みあん、ね……なーなも」 「おやつ? 兄ちゃん終わったの?」 「おわた」 廊下の奥から元気な声が家に響く。 手を洗い、おやつの準備に取り掛かる三条はそれを聞きながらバナナを半分に千切った。 「あーくっ」 「分かったって」 腕を引っ張られ連れてこられた風を装うが、きちんと身を屈めているんだ。 反抗期だけど弟には甘い所や優しい所が本当に可愛い。 笑いそうになるのを堪えて蜜柑とバナナ、お茶を各々のカップに注ぎ入れおやつの準備を済ませた所で、外から自動車の停車音がした。 程なくして、エンジンが切られドアの開閉音、姿を表した両親に綾登は嬉しそうに笑って駆けていく。 とたとたと足音まで嬉しそう。 「あ、みっちゃっ」 「ただいま。 留守番ありがとう」 「へへぇっ」 「お留守番のお礼。 パンダのパンだよ」 小さな手がそれを受け取ると引き摺りながら持ってきてくれた。 兄に手渡すと開けてとばかりに目の前に座る。 「こえ……こえ!」 兄弟のお気に入りのパン屋の袋から取り出された紙袋。 それに包まれた小さなクリームパンには動物柄のクッキー生地がのせられている。 熱で顔がダレてしまっているのを含めても、なんとも可愛らしい。 兄に見せて貰いパッと嬉しそうな顔をすると頬を両手で挟んだ。 「かあい」 「おやつの前で良かった」 「おてて、ぱかー」 「ピカピカだね」 炊事場から嬉しそうな声に返事をする夫婦も嬉しそうだ。

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