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第1135話
「あ、長岡先生、開けててくださいっ」
準備室へと帰ってきた長岡を出迎える声は室内ではなく、廊下から聞こえてくる。
なんだ?と踏み出した足を戻すとプリントを抱えた隣席の柏崎が早足でやって来た。
休み時間、生徒の目のある所で足で扉を開ける訳にもいかない。
長岡も教科書にノート、筆記用具を入れたペンケース、ファイル。
それから1クラス分の確認テストの用紙を持っているが、柏崎の方が量がある。
閉めるのも自分がした方が良い。
「先に入ってください。
閉めますから」
「助かります。
ありがとうございます」
さっと入室した同輩に続き、長岡もあたたかな準備室へと入った。
刷ったばかりの印刷物のにおいが僅かに香る。
「印刷、ありがとうございます」
「いえいえ。
えっと、これ、教頭からです。
全然収まりませんからね。
気を付ける様にって渡されました」
手渡されたプリントに目を通しながら手荷物を机に置く。
有効なワクチンもなく予防をするだけの現状。
地区的に流行ったり収まったりで、彼方此方から通学してくる高校にとっては最悪なシチュエーション。
“誰か”のせいでがネット上で誹謗中傷の種にもなり得る。
その“誰か”は生徒だけとは限らない。
「ま、そんな簡単に予防が出来るんなら今頃終息してますよね」
そして今、感染者数が急激に増えているのが恋人が暮らす豊かな地だった。
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