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第1138話
蜜柑のゼリーを大きな口で頬張る綾登はもぐもぐとゼリーでもしっかり噛んでいる。
頬がぷくっと膨れるのが兄にそっくりだ。
スプーンを持ちながら腕を擦る兄を、次男は見逃さない。
「兄ちゃん、痒いの?」
「え?
あぁ…ちょっとな」
「引っ掻くのやめなよ。
傷になるら痒み止め塗りな」
腕が痒い。
誰にも言ってないそれはこの時間になると酷くなる。
「ありがとう」
「兄ちゃんさ、もうちょっと自分の事にも気を遣いなよ。
綾登が泣くぞ」
「遣ってるつもりなんだけどな」
自分は自宅で勉強している。
感染をこわがりながら働いている大人達とも、毎日学校に通っている子供達とも違う。
公園に遊びに行けない弟とだって違う。
長岡に会えているしデートだって出来ている。
だから…
だから……、
『こちらは○市です。
新型ウイルスの10代20代の感染が急激に増えています。
外出を控え、うがい手洗い、マスクの徹底……』
「うぜ…」
防災無線から聞こえてくるのは、この地区の若者へのメッセージ。
徹底して遊ぶなと圧をかけてくる。
近所からの目が抑止欲になればとでも思っているのだろうか。
圧迫していると思えないのだろうか。
見映えばかりを気にする大人に、どれだけ利用されたら……。
頭の中に影が出来る。
「はぅと、とってもおいち、ね!」
「あぁ、美味しいな」
凍てつく心を支えてくれる大切な弟達を守りたい。
長岡を守りたい。
それは事実な筈なのに。
なんでこんな気持ちが生まれるのだろう。
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