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第1149話

職員室に顔を出してから、パタパタと校名の印刷されたスリッパを鳴らしながら廊下を進む。 次男のクラスの前にやって来ると息子と、泣きじゃくる女の子以外が此方を見た。 「すみません。 お待たせ致しました」 「あ、お母さん。 ご足労ありがとうございます。 それが…」 泣いている子には見覚えがあった。 小学生の時も、同じ様な事があったからだ。 「あなたは…」 「すみません…っ。 太田の母で……す」 やっぱりだ。 数年前の記憶が一気に蘇る。 『お兄さんの事、名前で呼ぶなんて変だよ』 そう言って、他の女の子達と次男を責めた子とその母親だ。 優登はそれから兄の事を“兄ちゃん”と呼ぶようになった。 たった一言の否定で。 この子は変わってしまった。 それがどんな思いだったか、この親子は知らない。 正直会いたくはなかったが、そんな気はしていた。 こういう時の嫌な勘というのは当たるものだ。 入室し息子の隣へと腰を下ろすと話がはじまった。

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