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第1153話

次男の部屋のドアをノックすると、くぐもった声で入室が許可された。 着替えるのも面倒臭いのか制服のまま床に突っ伏してしていた。 クッションに顔を埋めているから声がくぐもったのか。 暖房だけはつけたらしい。 部屋の電気を点けると一瞬眩しくて視界が眩んだ。 「優登、あったかいお茶置いとくから飲めよ」 「兄ちゃんみたいな先生ばっかりなら良いのに」 のそりと起き上がると学ランを脱いだ。 その下に着ているのは、三条が贈った美味しそうな色をしたカーディガン。 そのまま、ぼけっとした顔をこちらに向けた。 「別に、俺は誰かになんか言われてもどうでも良いし、気にしてない。 それは本当。 だけど、なにかされた側が許さなくちゃいけないのが理解出来ない。 出来ないものは出来ない。 そんなんがまかりと通るなら、したもん勝ちじゃん」 「そうだな」 「兄ちゃん。 俺、また兄ちゃんの事名前で呼びたい。 ほんとはずっとそうしたかった。 誰かに言われたからなんて俺らしくねぇよな。 綾登が最近名前で読んでで、やっぱり…って思ってた」 「うん。 また名前で呼んでくれ。 俺も嬉しいし」 低くなった声にそう呼ばれたい。 また、名前を呼ばれたい。 素直な気持ちだ。 「言ったろ。 俺の事をなんて呼んだって、優登の兄ちゃんは俺だけだって。 別に綾登だって母さんの事をみっちゃんって呼んでんだしな。 家じゃそれが普通だ」 「うん」 いきなり元に戻るのは難しいだろう。 ゆっくりで良い。 優登の早さで良いし、優登の自由で良い。 それが大切だ。 「あ、これ、綾登が分けてくれた。 優登にって。 溢すなよ」 手のひらから渡されるのはボーロ。 しかも、ほうれん草のばかりと思いきや綾登の好きな南瓜のも混じっている。 綾登なりになにかを感じたのだろう。 子供はそういうのに敏感だから。 「着替える。 で、火燵行く。 綾登に待っててって伝えてくれる?」 「任せとけよ」

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