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第1156話

「兄ちゃん、今良い?」 繋げたままの画面を見ると聞こえていた長岡は頷いた。 そしてなにかに触れ、画面から消えていった。 聞いてしまわない様に気遣い、ミュートにしてくれたんだろう。 優しい気遣いに甘え入室する様に手招いた。 「うん。 良いよ」 「さっきはありがとう。 小学生の時も、俺の事考えてくれたの分かってる。 それでも、心のどっかじゃなんで俺が呼び方変えなきゃなんだってモヤモヤしてて。 でも、今回ので母さんがすげぇ怒ってるの分かって、俺が折れる必要ないって思った」 「そうか」 申し訳程度に机に近付きちょこんと座った。 もう中学2年生になったのに、小学生の姿と重なる。 兄と呼ばない事を責められた時もこうして小さくなって座っていた。 「呼んでも良い?」 「勿論」 膝を抱え、そこに頬をくっ付けると足の指を動かす。 「遥登」 「久し振りに聞いた」 「ちょっとずつ、呼び慣れてく」 「分かった。 でもな、俺は本当にどっちでも良いから。 優登の兄ちゃんは俺だけなのは本当だし、俺が遥登なのも本当。 別にどっちだから嬉しいとかはねぇよ」 大袋のバラエティパックからお菓子を一握り手渡すと、パッと顔色が変わった。 自分に似て現金だ。 「ありがと」 「ストレス発散にお菓子作んなら付き合うから言えよ。 材料買いに行くのから食べるのまで任せろ」 「うん」 「もう良いのか?」 「うん。 ビデオ通話してるだろ。 相手に悪いし」 「そんな気遣いしてくれんのか。 大人になったな」 「まぁね」 じゃ、と自室へと帰っていく後ろ姿がまた少し大きくなっていた。 寂しくて、嬉しくて。 でも、やっぱり寂しい。 ゆっくり大人になって欲しい。 そして、笑顔で包まれていて欲しい。

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