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第1155話
「すみません、愚痴っちゃって…」
『それはその教師が悪りぃだろ。
なんで謝ったら許せっつぅんだ。
有り得ねぇ』
長岡のこういう所が憧れる。
真っ直ぐに、揺るぐ事のない言葉。
芯のある発言はいつだって生徒の味方だ。
悪い事をしたら叱り、そうでなければ全力で守ってくれる。
当たり前の事を当たり前にしてくれる大人。
大人でも子供でもない不安定な年頃の自分達と同じ目線でいてくれた。
それにどれ程救われたか。
ベッドの上で足の指をグーパーさせながら低く落ち着く声を聴いていた。
「…なんて言うんですかね、感情の強制って言いますか、自分の考えている事が“普通”だって思っている事がムカつきます。
好きじゃありません」
『正直、そういう教師は沢山いる。
勿論そうじゃない教師も沢山いる。
所謂ガチャだ。
ガチャ運が悪かったって思うしかねぇのは好きじゃねぇけどな』
鼓膜から身体を巡って頭に届く言葉。
若い子の使う流行言葉を混ぜながら届け方さえ変えてくれる恩師の言葉は素直に受け取れる。
“そういう”人だと知っているからだ。
『覚えとけ。
そういう奴は死んでも治らねぇ。
極力関わらないか、こっちが大人になるしかねぇな。
腹が立つけど』
その言葉を噛んだ。
何度も、何度も。
そうして飲み込んだ時に自分の血肉となるように。
『俺は遥登が好きだ。
それは、遥登がどうなろうと変りやしねぇよ。
でも、俺の好きな遥登がそいつのせいで変わるのは気に食わない。
遥登がムカつくって思うのと同じだ』
「同じ…」
『そう思って当然だ。
自然な感情だよ』
これから、社会に出た時に“そういう大人”は沢山いる。
善意の押し付け。
自分の正義で平気で殴って勝手に気持ち良くなる人。
そんな人達に心を揺らめかせるのは勿体ない。
そんな人達に心を磨り減らすなら、好きな人達の事を考えれば良い。
力になりたい人達の手を握るべきだ。
不公平でも良い。
例え、教師でも。
自論だがな、と長岡は笑った。
『それに、遥登の弟ならちゃんと伝わってるはずだ』
ごくんっと飲み込んだソレは身体中に拡がっていく。
大切なのは“なに”を言われたかではなく、“誰”に言われたか。
大丈夫。
優登なら、きっと気が付いている。
信じる事は時に勇気がいる。
だけど、優登なら信じきれる。
だって俺の弟だ。
「ありがとうございます」
『話聴いただけだろ。
俺はなんもしてやれてねぇよ』
そんな事はない。
噛めなかったものが噛めた気がする。
それは確かに長岡のお陰だ。
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