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第1161話

「はい、チョウザメ釣れた」 『まだ1分あります』 「引き分けならどうする?」 『正宗さんのも……きたっ』 ゲーム内の三条がグンッと釣り竿を引くとビチビチと暴れまわる。 魚群は大きかった。 あとは何が釣れるかが楽しみだ。 『あ! カジキです!』 「うわ、マジか…。 値段も一緒かよ」 『引き分けですよ』 「遥登の島、良いやつすげぇ釣れんな。 俺の島なんてスズキばっか釣れんぞ」 『気のせいですよ』 穏やかな表情になった三条にほんの少しだけ安堵した。 例えゲームで気が紛れているだけでも、今、自分がしてやれる精一杯だ。 日中は仕事。 生徒優先で、帰ってきてからも参考資料を作ったり仕事の雑務を片付けたりだって増えた。 そんな時、恋人は決まって無理しないでくださいと言ってくれる。 無理をしているのは三条の方なのに。 自分のは仕事だ。 だけど、三条の我慢は生きている人間が普通に行う生活の1部だ。 大学の授業もバイトも青春も取り戻せない時間なのにな。 それに、感染で関係がバレないようにと気を使ってくれている。 なんでこんな良い子ばかりが我慢しているのだろう。 『正宗さん、俺も特大釣れましたし写真は交換にしませんか。 正宗さんの自撮り欲しいです』 「あぁ。 あ、俺の服着たやつ欲しい」 『じゃあ、俺はイケイケのやつが良いです』 「イケイケってなんだよ」 『なんか、こう…こういう?感じです』 くいっと顔の角度を変えた三条の真似をすると、三条は喜んだ。 この顔が役に立つなら良かったのだが、心配だ。 なにせ、三条は良い子過ぎる。

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