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第1165話
「綾登っ。
服着ないと風邪ひいちゃうから」
風呂上がり、するりと母の手から逃れた末っ子は裸で走り出した。
今日も雪が降っていて肌寒い。
それでも湯上がりの末っ子はお構いなしにリビングを一周する。
「待って…こんな時ばっかり早いんだから…」
腕白に加え小さくて小回りの効く綾登はととっと駆けていく。
いくら暖房がついていても裸はいただけない。
三条は弄っていたスマホを炬燵の上に置き、手を伸ばした。
「捕まえた」
「へへぇ」
捕まった怪獣は、嬉しそうに兄にしがみ付く。
「遥登、ありがとう…。
疲れた…」
「ん。
折角風呂であったまったのに冷めてるじゃねぇか。
もっかい風呂行くぞ」
「ぶー」
兄に抱えられ今来た道を戻っていく後ろ姿を次男はタブレットで撮影する。
また末っ子の恥ずかしい歴史が残される。
ま、可愛いのだけど。
「また逃げたのか。
父さん湯だりそうだよ」
「とーと」
父親に受け渡すと末っ子はもう1度湯船に浸かる。
「美月ちゃんと追いかけっこが楽しいのは分かったから、家の中で走っちゃ駄目だ。
転んだらみんな心配するだろ。
怪我したらもっと心配だ。
それに風邪ひいたら遥登と優登と遊べないんだぞ」
「やっ」
「やだろ。
だから、お風呂から出たら美月ちゃんから拭いてもらってお着替えしてあったかくしとくんだ。
そうじゃないと、寝る時に美月ちゃんとっちゃうぞ」
「やぁっ!」
1歳児相手に何を言っているのか。
父親の溺愛具合は小さな頃と全く変わっていない。
母親がバスタオルを待って脱衣所にやって来たのでそれを受取り、代わりにリビングで保湿とドライヤーの準備を頼んだ。
まだまだ母親とも遊び足りないであろう末っ子の湯上がりは兄の方が大人しくしていてくれる。
遊んでも遊んでも足りないなんて、母親の事が大好きな父にそっくりだ。
「遥登、出ても良いか?」
「うん。
ほら、綾登こい!」
「はーぅっ!」
ぽすっとタオルを被せ粗方水分を拭き取り、少しでも冷めない様にくるんだまままた抱き上げる。
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