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第1167話

『なんだ? なんか、聞こえんな』 「あ……、防災無線です。 こっち、増えてますから」 『一々放送してんのか。 しんど』 「はい…」 長岡は目敏い。 次男と同じ様に。 『どうかしたな』 「え……」 『そういう顔してる。 気付かねぇと思ったか』 心配そうな顔をさせてしまった。 そちらの方が心がぎゅっとする。 『なんかある前に言ってくれ。 迷惑なんて思わねぇし、遥登が心配だ。 遥登になんかある方が心配なのは覚えといてくれ』 だけど、もし感染したら長岡は経路を言わなければならなくなる。 元生徒と夜中に会っていたと。 手を繋いだと。 きっと誤魔化しもせず嘘も言わないはずだ。 保健所も口外はしないと思う。 ただ、情報は伝えなくてはならない。 それが仕事だからだ。 もし、その提供先からバレるような事があったら、長岡は教員を続けられるのだろうか。 世間はそれを許すだろうか。 ネットは長岡を食い物にしないだろうか。 長岡が攻撃されるなんて想像もしたくない。 俺の最愛の人だ。 大切な人だから。 「ありがとうございます」 『遥登…』 「でも、本当にこれ以上拡がるのを防がないと。 弟も修学旅行行けなくなったんですから、行けた俺達がこれ以上我慢しなくて良いようにしないと不公平じゃないですか…」 長岡に嘘は通じない。 だから、本心で隠した。 それに、本当に大丈夫だと思ってたんだ。

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