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第1176話

滾々と降る雪を無視しスマホを弄っていると、此方に近付いてくる人陰に気が付いた。 窓を開けて顔を出せば丁寧に頭を下げられる。 長岡はその顔面の良さを余すところなく利用し優しく微笑んだ。 「はよ」 「あの、おはようございます」 後部座席に乗り込むかと思いきや、まだ確認をしてくる。 だけど、顔は正直だ。 マフラーとマスクがその半分を覆い隠していても分かる。 「……ほんとに、良いんですか」 「大丈夫だ。 俺が、そうしてぇんだ」 遥登を苦しませてまで自分の身を守るつもりはない。 あの日、守ると言った筈だ。 指輪と共に贈った言葉に嘘はない。 それに本当に嫌なら無理強いはしない。 それは大切にしている。 三条の意思が優先だ。 だが、三条の顔は行きたくないなんて言ってはいない。 むしろ会えて嬉しい気持ちを押し殺している。 殺す必要なんてないのに。 素直なのが三条の良いところだ。 好きになった理由の1つなのに。 三条は一度その言葉を噛み締めた。 「…ありがとうございます」 そうしてやっと車内に乗り込んだ。 「ほら、シートベルト締めてくれ。 行こう」 「はい」 凍結した道路を滑らない様にゆっくりと動き出した自動車は2人を乗せて今来た道を戻っていく。

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