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第1177話
「あの、お邪魔します」
「ん、どうぞ」
靴を揃えている三条を長岡はじっと眺め、立ち上がったところで腕を掴んだ。
「え…?
あの…」
「脱衣場行くぞ」
「脱衣場…ですか?」
くりくりした目がまっすぐに長岡を捕らえる。
その目が1度やわらかく微笑むと廊下を歩く。
引かれるように歩く三条はただ転ばないように足を動かした。
長岡が開けたのはリビングへと続くドアではない。
本当に脱衣所のものだ。
「なんで…」
「…手洗い」
「え…、あ…、そう、ですね」
驚いた。
“そういう事を”するのかと思った。
いつもは炊事場のシンクで手洗いをしていたが、確かに洗面台で手洗いをしたっておかしくはない。
というか、多くの人は洗面台で手洗いをする気もする。
長岡も手を洗い始めたので、素直にそれに続いた。
びっくりした…
本当に手洗うだけか
丁寧に炊事場に置かれていたハントソープがこちらにあった。
室内になるべくウイルスを持ち込まない様にしたいのかもしれない。
それなら、ここで手洗いうがいをさせてもらおう。
しっかりと指の股や手首まで洗い、ぶくぶくと口の中を濯ぐ。
「ありがとうございました」
「ん。
しっかり洗えたな」
手洗いとうがいを済ませ、またマスクを上げた。
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