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第1216話

「また来いよ」 「はい」 マフラーをなおしてくれる長岡と框の分だけ身長差が生まれ、屈まれつつ目を覗かれた。 やっぱり目玉さえ綺麗だ。 別れの瞬間は、いつも寂しく思う。 何度そうしても慣れなくて手をひきたくなる。 そんな我が儘を言っても長岡は笑って受け入れてくれるだろうが、今はそんな事を言える現状ではない。 長岡から少しでもリスクを遠ざけたい。 それだって確かな本音だ。 「んな顔して。 弟達が心配すんぞ。 あ、そうだ。 背中にキスマークつけたから、弟に見せ付けんなよ」 「み、せつけ、なんて…」 「遥登は露出の気があっからなぁ。 心配だ」 マスクのせいではなく、顔がアツくなった。 寒い玄関だと言うのに奥からじわじわとアツくなる。 たけど、恥ずかしいだけではなくて嬉しいとも思う。 マーキングの赤が消えて寂しかった。 長岡のだって目で解るそれが消えて、つけて欲しいって思っていた。 それが、今、背中にある。 早く帰ってそれを見たい気持ちさえ沸いてくる。 現金だなって笑ってしまう程に。 「それと、おまじないかけてやる」 「おまじない、ですか…?」 「そ。 “いってらっしゃい”」 いってらっしゃい。 対になる言葉は、ただいま。 ただいま。 「っ!」 「流石、頭良いな」 「あ、あの…っ」 「ん?」 「いってきます」 「うん。 いってらっしゃい。 いつでも帰ってこいよ」 長岡は、三条の扱いが上手い。 機嫌をとるのもお手の物だ。 だけど、それが嫌ではない。 寧ろ嬉しくて玄関に来てはじめて頬が緩んだ。

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