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第1230話

駐車場から自宅近くの曲がり角まで繋いでいた手を離した。 「じゃあ、またな」 「はい。 送ってくれてありがとうございました」 別れがたい気持ちがモロに出てしまう。 女々しくて嫌になるが、やっと会えたのだから仕方がないと思う。 “もう少し”と言いそうになるのを飲み込んだ。 困らせたくない。 笑って、別れなければ。 口端を意識して上げようとした。 「遥登」 手袋をした手が両頬を挟んだ。 ハッとするより早く綺麗な顔が目の前にやってくる。 「手袋ありがとうな。 すっげぇ使う」 大きな優しさに包まれている事を忘れるなとばかりの声。 答えのない問題ばかり考えてしまう悪い癖。 長岡は、それを決して口にしない。 それが三条を形作るものだと理解しているからだ。 欠点も短所も、引っ括めて愛している。 その言葉に嘘はない。 こうして、態度でも示してくれる。 だから、安心していられる。 「はい。 使ってください」 「3年が自由登校になったら時間つくれるから週末以外も会おうな」 「良いんですか」 「勿論。 今度は、川の向こうにも行ってみてぇ」 「はい。 デートしてください」 今度は、意識せず口端が上がる。 本当に、本当に長岡は自分の扱い方が上手だ。 「もっかい」 ぎゅぅっと抱き締められ良いにおいを胸いっぱいに吸い込んだ。

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