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第1232話

粗方の雪は掻いたが、冬用の靴を履いて登校する生徒は少ない。 ローファーやスニーカーでも転ばないようにもう少しかきたいところだが如何せんマスクをしてだと息が上がるのが早く体力消費も大きい。 「長岡先生、そろそろ終わりにしましょうか」 「はい」 「いやぁ、毎回助かります。 やっぱり若いと体力も筋力もあって早いですね」 「いえ。 先生の方が凄いですよ。 これから更に体育の指導もされるんでしょう」 「今日の1限は保健ですから気楽ですよ。 軽くストレッチさせようかって話は出るんですけど、雪掻きしてからだと俺がしんどくて」 そういえば、雪でグラウンドが使えない冬場は保健体育の授業が多かった気がする。 十数年前の記憶で朧気だが、救急処置の練習をしたのは覚えている。 わりと教諭の私情も含まれているんだなとぼんやり思った。 「やっぱり定期的に身体動かしてると違いますか?」 「うーん。 頭は覚えてても身体はついていかないって言うじゃないですか。 ほぼ毎日身体動かしていても衰えるものは衰えますからね」 電車通学がポツポツと姿を表し始めた。 もうそんな時間らしい。 当たり障りのない会話をしつつ長岡達も朝礼、1限目の準備に校内へと戻っていく。 手袋をポケットにしまいながら職員用玄関の片隅に除雪器具を片付けていると、隣に並んだ体育教諭からの視線を感じた。 「長岡先生って、まだ成長期ですか? なんだか、また一層高くなったような…」 「いや、流石に成長期は終わりました…」 恋人とは違い、もう成長期とは言えない。 あの子は筍みたいにぐんぐんと伸びるのに、自分は老いだ。 出会った時からそうだったので今更なんとも思わないが。 「先生、おはよー」 「おはよう」 「長岡先生もいる! おはよー」 「おはようございます」 「朝から嬉しい!」 「先生にはそんなにこやかな笑顔で挨拶してくれないだろ…」 「長岡先生は特別だよね」 「ねー」 「あー、先生ショックだなぁ…」 今日も賑やかな1日がはじまる。

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