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第1238話
目の前からやってくる人影はどうやら恋人のものらしい。
細くて歩き方も似ている。
いや、三条だろう。
長岡が間違えるはずがない。
長岡はスマホを取り出し無料アプリの通話ボタンを押す。
すると、数秒経ってから目の前の人影は立ち止まりスマホを取り出した。
スマホ回りが明るくなり、その人─恋人の顔が浮かぶ。
「もしもし。
前、見てくれるか」
『え…?』
ヒラヒラと手を降れば、あっ!と嬉しそうな声を出し駆けてくる。
飼い主を見付けた犬みたいな反応に愛おしさが込み上げる。
可愛くて愛おしくて、大切で。
世界を鮮やかにかえてくれる恋人。
「こんばんはっ」
「こんばんは。
走ってきたら苦しいだろ」
「この距離なら平気ですよ」
会ってからストレスが和らいだようだ。
どんどん表情が穏やかに戻り、緊張は少なくなった。
会わない事が守る事だと思っていたが、会わなければ守れないものもあると痛感した。
自分が守りたいのどちらか、もう見謝りたくはない。
頭をくしゃくしゃと撫でるとその顔は更に嬉しさを増す。
やっぱりこの顔が世界で1番大切だ。
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