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第1276話
発展場は今日も自動車が停車していない。
本当に発展場なのだろうかと思う程、この場所で人には会わない。
いや、先程スマホを見ていたのは此処の利用者を確認していたんだ。
長岡はそういう細かい心遣いの出来る人。
なら、人はいなくて当たり前。
やっぱり長岡は格好良い。
「悪い。
鞄取ってくれるか」
「はい。
どうぞ」
「ありがと」
中身を軽く確認してから長岡は視線を三条に戻した。
どこか男の色がある目だが、優しく微笑ませる。
「トイレ行くぞ」
「あ、はい」
バタンッとドアを閉めると、此方も冷たい風が足元の空気を巻き上げる。
公園の横は田んぼだ。
線路側は柵や樹木が壁になっているが、田畑から吹き込む風はとても冷たい。
こんな長閑な所で、淫らな事をする。
恋人といやらしい事を楽しむ。
なんて破廉恥なんだろう。
だけど、それはとても甘美で狂おしい位愛に溺れる。
長岡の背中に手を伸ばした。
「ん?
どうした」
「…好き、です」
長岡は一瞬きょとんとしたが、すぐに優しく目を細めてくれた。
マスクが顔の半分を覆い隠したって分かる。
「俺もすげぇ好き。
つか、外で言ってくれんなんて思ってもなかったからすげぇ嬉しい」
「誰もいませんから、」
「じゃ、俺もすげぇ気持ちくするな」
頬がやけにアツくなりコートを掴みながら後を着いていった。
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