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第1313話
身支度を整えて車へと乗り込む間も誰にも会わずに済んだ。
2人の行為を知っているのは辺りを真っ白に染める雪のみ。
「すっきりしたな」
「……はい」
「恥ずかしかった?」
「………でも、興奮…しました」
「ははっ、俺も興奮した」
後部座席のシートに深く座り込んだ三条は、漸く外した首輪を手にモジモジと落ち着かなそうにしている。
あの後、ローターを外され丸出しの下半身を拭われたのだが、とてつもなく恥ずかしく─自分でやると言ったのだが楽しいから駄目だと言われてしまった─その羞恥が抜けきれていない。
抜けきれていないといえば、三条のスイッチは完全に普段の方へと戻ってしまったと思いきや、長岡を見る目や纏う空気はいまだ艶やかさを残したままだ。
それに当てられるのを必死に抑え、大人のふりをする長岡。
時間は有限だ。
時刻は、そろそろ三条の帰宅を急かしはじめた。
それに気が付いているのは、なにも長岡だけではない。
「あの……」
「うん?」
三条は後部座席から身を乗り出すと、長岡の頬に自分のそれをくっ付けた。
そして、小さくスリ…と擦るとゆっくりと離れていく。
「キス、は…出来きませんから……」
三条らしい“そういうところ”が大好きだ。
愛おしい。
なによりも大切だ。
そんな目をした長岡が、三条が腰を下ろすのを制した。
「じゃ、俺からも」
同じように頬をくっ付け、マスクのゴム同士がぶつかった。
清潔なにおいに混じって雪のにおいがする。
「身体や言葉だけじゃ安っぽいだろ」
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