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第1325話
整髪剤を落とし、身体を清潔なにおいに包み、それを洗い流す。
眠気こそまだ僅かに残るが、大分さっぱりした。
顔回りに張り付く髪を後ろへと撫で付けながら三条─通話カメラ─を振り返る。
「遥登、まだ時間大丈夫か」
『はい』
「良かった。
なら、もう少し付き合ってくれ」
湯が3分の1も溜まっていない湯船に浸かり、ふーっと息を吐いた。
僅かでも湯船に浸かると極楽だ。
欲を言えば、三条と浸かりたい。
あの細っこくてあたたかい身体を抱き締めながら浸かるのは最高だ。
『寒くないですか』
「平気だよ。
それより、遥登といてぇの」
令和の高校生は、自分達の頃の学生に比べ穏やかだ。
協調性があり性格もおおらか。
それでも、感染症のストレスでイライラしている生徒だっている。
そんなのかわいいものだと思っても、恋人には敵わない。
だって、このふにゃふにゃした顔だ。
頬の筋肉はどうした。
くっそ可愛い。
「今日はなにしてた?」
『今日は、弟と露店市に行きました。
おまけに蜜柑貰って喜んでで、なのに、おやつに分けてくれたんです。
嬉しくて、すごく美味しかったです』
ふにゃっと兄の顔で笑う三条。
この子といると、なにかを気にしたり取り繕ったりせずにいられる。
自分を丸ごと愛して貰える自信だろう。
自分で良いのだと許されたようだ。
『あとは、いつも通りに授業受けてました。
そうだ、後でレポート読んで貰っても良いですか。
なんか、書きたい事が纏まってない気がして…』
「任せろ。
でも、書きたい事が纏らねぇって珍しいな」
『……正宗さんの所、数が増えてますから』
この子は……
「俺の事、心配してくれてんのか?」
『当たり前ですよ…。
だって、正宗さんですから』
三条らしい言葉がたまらなく良い。
その意味や、気持ちが身体に染み入ってくる。
なんてしあわせ者なのだろう。
「気を付けてる。
俺だって、遥登に会えねぇとかしんどい。
また今週も会いに行くから、デートしような」
小さな約束を繰り返してやる事しか出来ない。
それでも、三条が少しでも安心出来るなら何度だってしてやる。
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