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第1336話
「雪、多くなってきたな。
寒くねぇか?
車行くか?
2人っきりになれんぞ」
「俺は大丈夫ですけど、2人っきり…なりたいです……」
「じゃ、デートしような」
小指を絡める長岡を見上げた。
恋人と出会ったのは学校だった。
そういう立場で、そういう関係。
1歩踏み出せば世間の晒し者になる関係。
SNSの爆発材。
だが責任を取るのは簡単だ。
仕事を辞めれば一応の"責任"はとれる。
世間も1年もすれば忘れる。
好奇心を擽る次の事件が起きれば忘れられる。
だとしても、相当の覚悟があったはずだ。
「正宗さん」
「うん?」
「消毒をするので、手を握っても…良いでしょうか」
少しだけ驚いた顔をした恋人は、次の瞬間ふわりと笑った。
やわらかな眼差しも、表情も、今は俺だけのもの。
「あぁ、勿論」
さっと差し出された手をしっかり握りしめた。
細くて節が目立つ手。
爪が綺麗に手入れされていて、プレゼントしたハンドクリームを使っているにも関わらずまた荒れてきている大きな手だ。
荒れは、チョークと言うより消毒用アルコールのせいだろう。
かくいう自分もこの11ヵ月程で荒れていた。
「手、荒れてるな」
「何処に買い物に行っても消毒しますから。
それに、正宗さんもですよ」
生徒が安心して授業を受けに来られる様に教職員は消毒をして回っている。
3学年は人生の岐路だ。
これからを左右する大切な時期にこんな事で足を引っ張られて欲しくない。
悔しい思いは消毒液で拭き取られている。
「俺達は生徒を守るのも仕事だ。
遥登を優先してやれなくて、ごめんな」
「なにを謝る必要があるんですか。
俺は、そんな先生に惹かれたんですよ。
真面目で優しくて、生徒想いで、俺のお手本です。
格好良いです」
「ありがとな」
「目標がこんなに大きくてハードルも高いけど、ハードルなら潜れば良いんですし」
「そう言って貰えて嬉しいよ。
気ぃ使わせたな」
「そんな気を使うなんて事はありません。
本当にそう思ってます」
繋ぎあった手に力を入れると優しく握り返してくれた。
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