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第1338話

服を直し、三条はすぐにリュックを手にとった。 今日はチョコレートを手渡すのが目的の1つ。 「正宗さん、あの…バレンタインのプレゼントです。 受け取ってくれますか…?」 「勿論。 ありがとう」 まずは市販のチョコレートを手渡した。 やっぱり、手作りを渡すのは勇気がいる。 女々しいとか思われたくない。 冗談も通じないのかと笑われたくない。 だけど、勇気を振り絞る。 だって、長岡は真摯な人だ。 そんな事を思わない。 笑わない。 真剣に向き合い、本音で話してくれる。 「それと、……あの、これも…受け取ってくれますか」 市販品の綺麗なラッピングに比べ、無骨な物だ。 映えもしない。 それでも、愛情だけは沢山、たくさん込めた。 誰にも負けない。 それだけは自信がある。 おずおずと上目に伺えば、長岡はとても嬉しそうな顔で受け取ってくれた。 あ… そして、紙袋の中を覗き目を輝かせる。 「本当に良いのか? 2つもだぞ?」 「はい…。 ご迷惑でなければ」 「迷惑な訳ねぇだろ。 うわ。 すっげ嬉しい。 は、ははっ、やべぇ」 にやける、とマスクの上から更に手で口元を隠す。 長岡がこんなに嬉しそうにするなんて想像も出来なかった。 中に手を入れ、2つ取り出す。 それを、明かりに当てマジマジと見始めた。 少し恥ずかしが、とても嬉しい気持ちが勝っていく。 「おー、売り物みてぇ。 早速食っても良いか?」 「大袈裟ですよ…。 お口に合うと良いんですけど…」 一旦マフィンをシートの上へと置くと、持ち運び用のアルコールジェルを手に刷り込んだ。 そして、手を合わせ「いただきます」と目を見てくれた。 「んー、めぇ」 1口、2口、しっかりと噛み、味わっているのが見て分かる。 そして、本当に嬉しそうにする。 そうして、漸く安堵した。

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