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第1386話
「流石に、この時間じゃやってる店も少ねぇな」
「コンビニくらいですね。
あとは、24時間の薬局」
通り過ぎ様にそちらを見ると、やけに燦々とした明かりが目についた。
今日は、待ちに待った翌日。
ドライブデートの日。
遠出はするが深夜には変わりない。
だが、夜はすべてを平等にしてくれる。
暗がりに紛れ恋人を隣に座らせる事が出来るのだから良い夜だ。
「でも、明るいな」
「ここら辺は外灯も沢山ありますからね。
それにホテルも。
ほんの少し移動しただけで賑やかになります」
三条の暮らす住宅街からほんの15分程車を走らせた場所は、逢い引きを行うこの時間でも相手の顔が見られる程明るい。
とは言え、やはり繁華街には負ける。
走行する自動車の数も少なく、恋人を助手席に乗せドライブデートが出来る事は嬉しいが。
何処へ行こうか決めずに適当にハンドルを切りどんどん三条の自宅から遠ざかる。
ただ、それだけのデートなのに三条はずっと嬉しそうにニコニコしていた。
その顔を見る事の出来る長岡も口端がユルユルだ。
「良い所だな。
あっちは緑が豊かで、こっちは物が豊か。
生活するならこういう場所の方が良いだろ」
「正宗さんのところだってそうじゃないですか。
大学は近いですし、学生街の近くだからご飯は大盛りですし、繁華街近いですし。
大きな本屋もあります」
「本屋くらいあんだろ」
「あそこに蔦屋があるだけですよ」
流石にそれはないだろとチラリと横顔を盗み見るが、嘘ではなさそうだ。
三条はそんなつまらない嘘は吐かない。
「マジか」
「俺が産まれた頃はあっちにも本屋があったみたいなんですけど、今はないです。
だから、直接見て買いたいのは繁華街まで行きます。
時間が許せばネットもありますし、俺は、この今しか知りませんから特別不便とは思いませんけど、でもあると良いなと思う時はあります」
本は人を豊かにしてくれる。
知識や夢、生き方を教えてくれる。
だけど、生活に必ずしも必要かと聞かれればそうではない。
あんなに素敵な世界も、興味のない人間から見たらただの言葉の羅列。
ネットで無料で手に入れられる時代になってしまった。
都会でも有名な本屋が閉店だとニュースにもなる今、本の虜は少し寂しい。
あのにおいが良い。
手触りが良い。
沢山の魅力で溢れた本が大好きだ。
「来週は本沢山持ってくるから好きなの持ってけ。
勉強の参考になりそうなのも持ってくるから」
「本当ですかっ。
嬉しいです」
「じゃあ、お礼になんかしてもらお」
マスクの下で、にっと笑った。
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