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第1394話

特になにかをする訳ではない。 お菓子を食べ終え、またドライブだ。 それでも、一緒に過ごす時間は嬉しい。 なにかをするから楽しいのではないと、つくづく思う。 にこにこと口端を上げた三条は鼻唄でも歌いそうなほどご機嫌だ。 長岡もそれに気付きマスクの中で同じく頬の筋肉を緩めていた。 三条も長岡も、1人の時間を必要とするがこういう時間もまた必要だった。 ただ、2人で使う時間。 とても贅沢で有意義なものだ。 端から見れば、会話をすべきだ、デートをすべきだ、と言われてしまうかもしれない。 けれど、2人はそうする時間が好きだった。 だから、そうするだけ。 「飲みますか?」 「あぁ。 ありがと」 信号が赤色の内に口を潤す。 暖房のお陰か、先程のお菓子のお陰か、はたまたそのどちらもか口が乾く。 お茶をゴクゴクと流し込み、隣の恋人も自身の分を煽る。 1口、2口。 そうして、歩行者用信号機の点滅に気が付き直ぐ様キャップを締めた。 「動くぞ」 「はい」 律儀な三条も車道用の信号が赤でなければ飲み物を口にしない。 三条本人は無意識にしてしまう小さな気遣い。 気にしなくても良いと言ったとしてもそれをやめたりはしないだろう。 実際、長岡はなにも気にしない。 運転中に隣で寝ても、それだけ気を許してくれている、安心してくれていると思う。 だが、三条はそういう気遣いの出来る子だ。 折角2人でいるんだから起きてたいですなんて言うんだろうな。 キャップを締める細い指に嵌まる指輪をチラリと見てから視線を前へと戻す。 もう少しだけ。 そんな我が儘を口にはせず、三条の自宅とは反対にハンドルを切った。

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