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第1402話

呼び鈴のボタンを押すとすぐに扉が開かれる。 「はよ、遥登」 そして、直ぐ様顔を出した恋人の柔和な笑顔。 今までと同じそれが、こんなにも嬉しい。 胸がきゅぅっとして金曜日の夜みたいにとても軽やか。 確実に近付く春の気配が濃く感じるのは都合が良過ぎるだろうか。 「おはようございます」 お邪魔しますと最後まで言わせて貰えず、腕を引かれ入室した。 空気は冷たいが、風が当たらないだけで身体は随分と楽だ。 靴を脱ぎ広い背中に着いていく。 マスクは外さずにいる。 それでも、良いにおいがするのは解る。 洗濯洗剤のにおいと香水、長岡の体臭の混じった大好きなにおい。 ニヤニヤしても長岡からは見えないので安心だ。 あたたかなリビングは1年前とほぼ同じ姿でいる。 本棚の本は増え、床に積まれた本や積ん読も増殖してはいるが後はそのままだ。 そんな事すら嬉しい。 「水道お借りします」 「どうぞ。 お湯を使えって」 自宅と同じ綺麗を強調したハンドソープでしっかりと手を洗い、うがいを済ませた。 水気を切るように手を振れば直ぐ様タオルが差し出され、また甘える。

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