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第1403話
そのまま炊事場でゴリゴリと豆を挽く。
砕けた豆から香ばしく豊かな香りが広がっていく。
「すごい良いにおいがします」
「良いよな。
インスタントとは違げぇの」
ミルで挽くなんて自宅ではしない事だ。
たった、それだけの事なのに経験した事のない事をするのは胸が弾む。
まだまだ子供だと言われそうだが、そればかりは否定出来ない。
長岡だって子供心を忘れていないのだからお揃いだ。
「楽しいです」
「そりゃ良かった。
俺はいつも楽しんでるから沢山挽いてけ」
お湯を注ぐだけのインスタントとは違い、手間がかかる。
だけど、その分その時間を恋人と共有出来るのは嬉しくもあり楽しくもある。
しかも、画面越しではなく直接だ。
そんなの嬉しいに決まっている。
「ご機嫌だな」
「はい。
嬉しいですから」
「俺も遥登がいてくれて嬉しい」
頭の天辺にのせられた手で髪を搔き乱された。
それでも、こんなに嬉しい。
ベタ惚れだなんて言葉では足りないほど惚れている。
綺麗な顔。
背丈の分だけ低い声。
古典に対して真摯な姿。
それから、この優しさ。
惚れる箇所はいくらでもある。
どれも、とても好きな1面だ。
「それに、これ。
俺の婚約者って見せびらかせんのも最高」
薬指を指摘され三条もしあわせそうな顔をした。
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