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第1404話

ポタポタと落ちていく雫。 その1滴、1滴が貯まっていくのを眺める。 「サイフォンの方が良かったですか?」 「気を遣い過ぎだ。 ドリップしたのすげぇ美味いんだからな」 本当に?と顔を覗くと頷かれた。 「時間を贅沢に使ってんなって思う。 この時間だけはコーヒーに向き合ねぇとだろ。 なんか新鮮で楽しいし、これ使ってると遥登の色んな事思い出して楽しい」 「色んな事…って……」 「そりゃ、楽しいこと」 スッと細められた目にゾクリとしたのも束の間、すぐにパッといつもの顔へと戻ってしまった。 「それより、昼飯食ってきたか?」 「いえ。 遅めに朝ご飯を食べたので…」 「食えんだろ。 食ってけよ。 あ、食うの不安か?」 思ってもみなかった言葉に三条は目を丸くした。 本当に良いのか。 一緒に食事が出来るのか。 隠しきれない喜びが、表情や尻尾に表れる。 それはマスクでも隠しようがない。 「俺だけ食うのとか気まずいだろ。 遥登も食ってくれると嬉しい」 「じゃあ、お言葉に甘えさせてください。 お手伝いします。 なんでも言ってください」 「コーヒー淹れてくれんだから飯は俺が作んだよ。 つっても、うどんだけどな」 「うどん……」 「約束したろ。 ほうれん草とかきたまのうどん作るって」 あの日の約束から、どれ程の時間が経ったのだろうか。 いつも一緒に食べていた食事がこんなにも恋しい。 こんなにも嬉しい。 胸を満たす気持ちを言葉では伝えるのはとても難しくて、どう伝えるべきか考えた。 必死に頭をフル回転させた。 だけど、身体が先に動く。 気持ちに素直に。 愚直に。 「ほうれん草とかきたまのうどん大好きですっ」 幼い子供のような表現。 だけど、長岡は嬉しそうな顔をした。 「じゃ、たまごふわふわにしてやる」 「やった!」 自分達には、背伸びをしたりせずこれが似合っている。

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