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第1405話

コーヒーをドリップする隣で、鍋に水をはり火にかける。 香ばしいにおいと、ふわふわした笑顔。 大好きな恋人の存在に、2人共ご機嫌だ。 「折角ならコーヒー、食後に誘えば良かったな」 「ぬるい方が飲みやすいですよ」 「ははっ。 そうだな」 猫舌は大変だとでも言いたげな顔だが、やっぱり笑った顔はとても良い。 例えマスクがその半分を隠していても見惚れる程大好きだ。 「ま、良いか。 飯の前に飲んだって良いんだしな」 カザカザと冷凍庫を漁り取り出された冷凍野菜をぽいっと湯に投入する背中を掴むと、引っ張られる服の感覚で気が付いた長岡がその手に触れた。 冷凍野菜に触れていたのでいつも以上に冷たい。 三条は持っていたケルトを作業台に残し1歩長岡へと近付く。 「ん? どうした」 「正宗さんに、いつでも触れられるの嬉しいです」 「俺も、触って貰えんの嬉しい。 俺からも触って良いか」 「はい」 掴んでいた指先を絡めとられ2人の間に掲げられる。 キラッと電灯の光を反射させる銀色に幸福感が満ちていく。 その輝きは尊くて儚くて、あまりにも普通の顔をしている。 「何度見ても良いな。 俺のって感じする」 「就職したら俺も正宗さんにプレゼントするので、つけてください」 「3ヶ月分?」 冗談めかす声にしっかりと頷き、目を見詰めた。 3ヶ月でも、半年分でも、1年分でも。 それで、長岡の未来を予約出来るのなら安いものだ。 いつかを考え不安になる事もある。 それでも、隣にいる人は必ず長岡だ。 どんな時も、隣には長岡がいてくれる。 だから、頑張れる事もある。 鍋の水が沸騰しても指輪を見ていた。

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