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第1431話

本を鞄に詰める恋人に、これも、とまた1冊手渡した。 「おすすめ。 20年位前のやつだけど、面白かった」 帯にさっと目を通した三条の口端が上がった。 もう一度最初から読みたくなる。 ありふれた言葉ではあるが、やはり気になる言葉だ。 興味をひけたらしい。 実際、面白かったし読んで欲しいと思っていたのだが、こうして興味を持って貰える姿を目の前にするとまた一入の嬉しさがある。 「ありがとうございます。 もっかい読みたくなりましたか?」 「なった。 あー、って思った」 「読むの楽しみですっ」 ふふっと笑う三条に安心した。 漸く心も落ち着いたらしい。 顔もすっかり平常を取り戻し、帰宅させるなら今が良いだろう。 名残惜しいが家族の元へも返さなければ。 大人としての最後の線引きだ。 こんな世情でなければ外泊にさそうのだが。 「パンツ、洗っとくからまた取りに来いよ」 キャップを被せながらそう言えば、尻尾が大きく揺れた。 「お手数おかけしてすみません。 あの、良いんですか」 「当たり前だろ。 また一緒にコーヒー飲もうな」 うんうんと頷くその顔は先程とは真逆に子供のように屈託がなく可愛らしい。 どちらがより良いという事はないが、やっぱりこの顔も好きだ。 キャップごと頭を撫でると更にふにゃふにゃするので暫く撫でくりまわしていた。

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