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第1440話
鼻の奥が痛む寒さはなくなった。
とは言え、よく朝晩は冷える。
風邪をひかす訳にもいかないと、口の中でキャラメルを転がしながらゆっくりと駐車場へと歩いていく。
「正宗さんってよくキャラメル持ってますけど、好きなんですか?」
「亀田先生に貰ってたんだよ。
疲れた時は甘いものですよって。
それで、よく机の上にあったんだ」
「野菜もくれるし、お父さんみたいですね」
「ほんとにな。
でも、助かってる。
あの知識がもうすぐ広まらなくなるのが惜しいよ」
もう随分と年配の亀田。
2、3年で定年だろう。
あの豊富な知識を人に伝える仕事はおしまい。
それは、とても残念だ。
そう呟く長岡の横顔を眺める事しか出来ない。
教師は、人生の道途中にいる人でしかない。
忘れられて当然。
それで良い。
時々、長岡が口にするその言葉の意味を亀田は知っているのだろうか。
自分も、知りたいと思うのは我が儘…?
「で、今でもたまに食いたくなる」
マフラーを引き上げ鼻先まで防寒すると吐く息の白さが増した。
「餌付けされてます……」
醜い言葉を吐き出してしまった。
みっともない。
良い年をして嫉妬だ。
「はーると」
信号で立ち止まると後ろから抱き付かれた。
「っ!」
「すげぇビクッてしたな」
「びっくりしました……」
「悪い。
でも、こんな事すんのは遥登だけだ」
後ろから回された手が腹をぎゅっと抱き寄せた。
「こんなに大切だって思うのも、欲しいって思うのも」
「あの…、恥ずかしいです……」
「勃つのも遥登だしな」
長岡は、本当に自分の扱いが上手い。
機嫌を直すのもお手の物。
大人で、優しくて、大きくて。
それに甘えふように、冷たい手に触れた。
「……また、お菓子を作ってくるので食べてくだしい」
「マジか。
楽しみ。
期待してる。
あ、そうだ、俺の旦那な、可愛い嫉妬してくれてすっげぇ可愛いんだよ。
今度、好きなのは旦那だけって教えようと思うんだけど、どんな事したら喜んでくれると思う?」
「…………昼寝、とか」
「ん。
参考にする」
青から赤、そしてまた青色へと変わった信号機の下を2人で歩く。
今度は、しっかりと手を繋いで。
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