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第5話 獣人の森ダソス
仙人に別れを告げたあと、俺達は木でできたトンネルをくぐっていた。結構距離がある。暇潰しもかねて俺は力人達に話しかけることにした。
「ねぇ、ダソスっていってたっけ?そこってどんなところなの?」
「ダソスは獣人の森さ。といってもきちんとした文化が確立されているし、周囲の国とも連携がとれている。唯一の問題は貧富の差がはっきりとしていることだね。力人の故郷でもある。だろ?」知聖が教えてくれる。「ん?あぁ、そうだな。」その知聖の問いに力人は苦笑いを浮かべただけだった。
どのくらい歩いただろうか。やがて一点の光が見えはじめ、それがだんだん大きくなっていった。
光のアーチをくぐると、そこは薄汚れた通路だった。後ろを振り返ってみてもそこに木でできたトンネルはなく、壁に閉ざされていた。おそらく仙人が閉じたのだろう。
「ここが、さっきいってた貧困そうなの?」
「そうだな、スラム街って呼ばれてる。だいたい子供は腹空かせてる。ここを取り仕切ってる頭領が変わっていくぶんかはましになったけど、それでもまだ、全員の餓えをしのげちゃいねぇ。……俺にもっと……力があったら……。」
俺の問いに力人が吐き捨てるように答えた。が、最後の方は声が小さくて聞き取れなかった。
「あ、あの……」
しばらく歩いていると後ろから声をかけられた。
振り替えるとボロをまとった男の子がひび割れた茶碗をもって立っていた。
「お、お兄ちゃんたち、旅の人?……食べ物ちょうだい?」俺の服を引っ張る小さな腕は痩せ細っている。
「何をしているんだ勇助!さっさと行くぞ!」
知聖に呼び掛けられる。どうしようか?食べ物すこし位分けてやってもいいんじゃないのかな?
「あ、あのさ、食べ物、仙人から貰ったのがあるよね。すこし分けてあげない?」と提案する。
「ダメだ。その子たちに分けてあげたら他の人たちにも分けてあげないといけなくなる。そうしたら僕たちの分も無くなってしまう。」
「……」それを聞いていた力人は黙って知聖の方へ歩み寄る。ガッと鈍い音が走り、知聖は力人に殴り飛ばされていた。
「な、なにをするんだ!」殴り飛ばされた知聖が力人に向かって文句をいう。
「……」その文句を無視して力人は無言で荷物をほどき、中からパンを取り出した。それを半分にちぎると、先ほどのみすぼらしい子供のところへいきそれを差し出す。しかし、先ほどの知聖の言葉もあってかその子はなかなか受け取ろうとしない。
「お前、兄弟がいるんだろう?」と力人が訪ねるとその子はコクンと頷いた。
「だったら、遠慮すんな。そいつら、飢え死にさせんなよ?頑張れよにーちゃん!」そう言ってその子の頭を乱暴に撫でる。
「あ、ありがとう……」そう言ってその子は走り去っていった。
「……おい、なに勝手なことをしているんだ!あの子にあげたら他の……」
「十分生きていけるやつらが来たら俺が追っ払う。それでいいだろう。」
知聖が力人に文句を言おうとしたが、その口上を遮り力人はすたすたと歩き出した。
「まぁ、それなら……」その雰囲気に気圧されたのか知聖はなにも言い返さなかった。
それから宿につくまで、誰も一言もしゃべらなかった。力人は有言どおり、こちらが食べ物をあげなくても、生きていける人達が食べ物を求めてきても、無視をした。が、道中で子供たちを見かけると、惜しむことなく食べ物を分けてあげていた。夕方になってようやく宿についてもまだ、二人の雰囲気はなごむことがなかった。
宿につくと力人は「解れとはいわねぇ、でも、俺もスラム出身だ。子供たちはいつも真っ先に死んでいく。十分な食べ物がある俺達が食いもんを分けてやることで、アイツらが生き延びれる可能性が上がるんだ。悪かったな殴り飛ばしたりして。」そう言って食事もせずにすぐにベッドに入った。
俺と知聖は宿の一階で夕食をとった。
「俺も力人の気持ちすこしはわかる気がする。俺さ、父さんが先に死んじまって、母さんはいつも家を留守にしていた。たまに仕送りもあるけど、満足のいく料金じゃないしさ、満足にご飯も食べれる環境じゃなかった。」ていっても、ほとんど遊びに使ってる俺が悪いんだけどさ、と笑いながら知聖の顔を見る。知聖は
「……わかってるさ、でも、僕が言ったことも間違いだとは思わない。」とまだふてくされていた。
「わかるよ、その気持ちも。二人の気持ちすごくよくわかる。」
部屋に戻ると力人はすでに寝息を立てていた。
それにならい、俺達も寝ることにした。
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