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出逢い(2)

 東の大都市、イーストシスト(eastschist)は、世界各地から多種多様な民族が集まり混在して暮らしている。  そのイーストシスト市内のダウンタウンは、最もデンジャラスな地域だと言われている。  夜ともなれば、ストリートには多数の娼婦や、ドラッグ常習者が溢れ、恐喝や喧嘩やレイプ、殺人事件など、日常茶飯事のように事件が起きる。  夜が明けるまで、あちこちでサイレンが鳴り響く、眠らない街だ。  特に満月の夜は、犯罪率が高い。  そして……『人種のるつぼ』と言われているイーストシストには、“人ならざる者”も紛れているという事を、人間達は知らない。   「馬鹿野郎! どこ見て歩いてんだ!」  そんな危険な夜のストリートを、アンジュ・ブランは、オドオドとした様子で、うつむき気味に歩いていて、いかにもガラの悪そうな大男にぶつかってしまった。ヲ 「……あ……ごめん」  慌てて顔を上げたアンジュに、男は一瞬言葉を失った。  ────俯いている時には気づかなかったが、こいつは上物だ……と。  男は、あからさまに値踏みするようにアンジュの身体に視線を這わせた。  痩せていて、身なりはみすぼらしいが、少し長めの前髪の隙間から覗く淡い水色の瞳。  ボサボサで薄汚れているが、その髪はプラチナブロンドに違いない。  ボタンを上から3個だけ外したシャツの前立ての隙間から、陶器のような白い肌が見え隠れしている。それが余計に、わざと露出して男に媚びを売る娼婦よりも艶めかしく思え、男は思わずゴクリと音を立たせて生唾を飲み下した。  そして、“ごめん”と一言だけ発し、踵を返そうとするアンジュの華奢な手首を、逃がすものかと、強い力で掴んで引き留める。 「ちょっと待った。ぶつかっておいてそれだけ?」 「オレ……ちゃんと謝っただろ?」 「あのな……目上の人に敬語使えって教えてもらわなかったの?」  掴んだ手首をグイッと引き寄せ、男が距離を詰める。 「お前、Ωだろ?」  仄かに漂う甘い匂いを確かめるように、男はアンジュの首筋に鼻先を近づけて、まるで犬のようにクンクンと鼻を鳴らした。

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