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出逢い(3)
男の言う通り、アンジュは男型のΩである。
この世界は、男性と女性の二つの性以外に、α、β、Ωという三種類の性が存在する。
最も多いのは全人口の7割以上を占めるβ性だ。身体的特徴も行動も一般的で、ごく普通の生活をしている。
α性は、生まれつきβやΩよりもあらゆる面において優れていると考えられていて、社会で重きをなす人物や上流階級の大半はα性が占めているが、それでも全人口の2割程度しかいない。
そのαよりも更に数が少ないのがΩ性で、全人口の1割にも満たない。
特に男型のΩは、三種類の性の中で唯一男でも子供を産むことが出来る希少な存在である。
しかし、発情期が訪れると、その期間中は他の事が手につかず、誰彼かまわずにフェロモンを発する性質から、社会的階層は低く、10歳の誕生日に行われる三種類の性検査でΩと分かった場合、親にも疎まれ施設に預けられる事も少なくない。
アンジュも、そんなΩの一人だった。
19歳で施設を出なくてはならないΩ達は、生きていく為に仕事を探さなくてはならないが、身寄りのないΩを雇ってくれる所を見つける事は難しい。
その殆どは、風俗店などに身を置くことになる。
中でも繁殖のみを希望する客にΩは需要が高く、その身を売る者も多い。
──「お前Ωだろ?」
男にそう言われて、アンジュは一瞬嫌悪感に満ちた表情を見せたが、すぐに気持ちを悟られないように心の奥底に隠して笑顔をつくった。
「そうだよ……」
「いつもこの辺で立ってんのか?」
「……いつも、じゃねえよ」
こんな所をうろつくのは初めてだ。強がって“いつもじゃない”と言ってみたものの、勿論、身体を売った事なんて一度もない。
だけど、施設を出てから一週間。ろくな物を食べていない。
喉はカラカラ、空腹はとっくに限界を超えている。
だから生きていく為には、もうこれしかないと心は決めていた。しかし自分から身体を売るなんて初めてで、さっきから同じ場所を行ったり来たりしているだけで、どうやって客を誘えばいいのかさえ分からなかった。
「あんた、俺のこと買ってくれるの?」
わざと、擦れた言葉で、でも媚びを売るように上目遣いに男を見上げる。
これが今のアンジュの精一杯だ。
しかし思惑は外れ、男はアンジュの細い腕を捻り上げた。
「──痛っ、放せよ!」
「うるせぇ! 誰に断って、ここで売りやってんだ」
「……え?」
自分の身を売るのに、誰かに断りを入れないといけないのか? そんな事はずっと施設にいたアンジュには知る由も無い。
「この辺りは、マンテーニャ・ファミリーの島だって誰でも知ってる事だろ? ここで商売をしたいんなら、それなりの金を支払わないと駄目なんだよ」
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