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出逢い(4)

 マンテーニャ・ファミリーとは、イーストシストを牛耳るマフィア。それは世間に疎いアンジュでも、名前くらいは聞いた事があった。 「金払わないといけないなんて、そんなの知らなかった」 「悪いが、知らなかったで済む問題じゃないんだな、これが」 「でも……俺、小銭だって持ってないんだけど……」  腕を掴まれたまま、アンジュは何とか男から距離を取ろうと後退る。  このヤバそうな状況から逃げなくては……と、頭では分かっている。  しかし、掴まれた腕を強く引き寄せられたかと思うと、大きな手がグイッとアンジュの顎を捕らえた。そして男は、さっきよりも近い距離に顔を近づけて下卑た笑いを浮かべる。 「まぁ安心しな。お前なかなかの上玉だから、きっとすぐに金になるよ」 「え……?」  それはどういう意味だろう……と、アンジュは不思議そうに淡い水色の瞳を瞬かせた。 「マンテーニャの事務所に来れば、いい客を紹介してやるって言ってんだよ。金持ちの上客ばかりだから、売上から仲介料を差っ引いても、お前が飯食うくらいの報酬は保証できる。どうだ? 悪い話じゃないだろう?」  男の話は、ここで仕事をしたいアンジュにとってデメリットは一つもない。所場代を払って、このままここでウロウロと当てもなく客を探すよりは、紹介してもらう方が良いに決まっている。  アンジュはゆっくりと首を縦に振った。 「よし、決まりだな。じゃぁ行こうか」  男に肩を抱き寄せられて、アンジュは促されるように一歩前に足を進めた。  ──その時…… 「────ちょっと待って!」  突然、後ろから知らない声に呼び止められた。  振り返ってみると、スラリと背の高い、黒い髪の若い男が立っていた。  走って来たのか少し息急いていて、何だか妙に慌てている様子が幼くて、アンジュよりも若干年下に思える。  だけど、人を惹き付けるような琥珀色の瞳がやけに大人っぽく艶っぽい。  その瞳と目が合った瞬間、アンジュの心臓が何故かドクドクと激しく波打ち始めた。  ──何だ、この感覚は……。  彼から目が離せない。まるで何かに縫いとめられたように、アンジュの視線は、その琥珀色の瞳に釘付けになった。 「なんだぁ? 誰かと思ったら、ティカアニ家の坊ちゃんじゃないか」  隣にいる男の声が、聞き取れない位に遠くなる。  まるで、この世界には彼と自分しかいないような錯覚と、優しくてフワフワして、それでいて胸の奥が締め付けらる。そんな不思議な感覚に包まれていた。

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