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出逢い(5)
「すみません、この人をどこへ連れて行くつもりですか?」
不意に彼の声が耳に入ってきて、アンジュはハッと我に返った。
「どこへって……うちの事務所に連れて行くんだよ。分かるだろう?」
男がそう言った瞬間、琥珀色の目をした彼が、アンジュの腕を取り、守るように自分の方へ引き寄せる。
「駄目ですよ。この人うちの店で働いているんですから」
──え?
アンジュが驚いて目を瞠るのとほぼ同時に、男が声を荒げた。
「何言ってんだ、そんな訳ないだろ? こいつ、所場代払わずに、ここで客取ってるって、さっき自分でそう言ってたぞ」
「だから、うちで雇ってるから払わなくて良いんですよ。みかじめ料も、毎月ちゃんと払ってるはずですが?」
さっき息急いて走って来た時と違い、琥珀色の瞳をした彼の声は、妙に落ち着いていて凄みがある。
こっそりと隣を見上げると、通りを行き交う車のライトが反射して、彼の瞳を金色に輝かせた。
明るい色の虹彩の真ん中に浮かぶ黒い瞳孔が、鋭い視線を相手に送る。
それはぞくっとする程、美しく怖い。
さっきまで態度の大きかった男も、思わず怯んで後ずさる。
「わ、分かったよ。そっちの店で世話してるんなら文句はねぇよ」
男は、早口で言葉を吐き捨てると、慌てた様子でその場を立ち去って行った。
男の背中を見送って、彼はアンジュを振り返り、視線を合わせ、にっこりと人懐っこい笑顔を見せた。
その瞳は、今はもう、金色には光っていない。
「危なかったね。あなたのような人が、こんな所をウロついていては危険でしょ? 早く帰った方が……」
「何言ってんだ」
アンジュは彼の声を遮るように言葉を被せた。
「危険だから早く帰れ? 折角仕事が決まりそうだったのに、ありがた迷惑もいいとこだよ」
アンジュの言葉に、彼が琥珀色の瞳を大きく瞠くと、イエローとゴールド、小豆色と銅色が虹彩の中で混じり合い、揺れる。
──あぁ、また……
その不思議な色の瞳に吸い込まれそうになる。
「綺麗な瞳の色だね」
「……え?」
自分が言いたいと思った言葉を、先に彼に言われた。
なぜか顔が、カッと熱くなる。
「本当にここで客を取ろうとしていたの?」
「そうだよ。だからさっきの男が良い条件で働かせてくれると言うからついて行こうと思ったのに、お前が邪魔をしたんだ」
アンジュがそう言うと、彼は困ったように眉を下げた。
「でも、マフィアなんかに付いて行っちゃ何されるか分からないよ」
「さっきの男は、俺なら上客を取れると言った」
言い返すと、今度は琥珀色の瞳が微かに怒りの表情を浮かべた。
「上客って言っても、あいつの側から見ての上客であって、貴方がどんな目に合うか分からないんだよ。金を持ってるだけの変態で一生監禁されて薬漬けにされるかもしれないし、殺されて臓器売買される事だってあるんだ」
そこまで言うと、彼は一旦言葉を区切り、小さく息を吐く。
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