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出逢い(6)
不意に、スラリとした長い指が伸びてきて、目元に触れた。
綺麗な手だな……と、アンジュは思う。きっと今まで苦労など知らずに生きてきた。そんな手をしている。
「この美しい瞳だって、眼球を抉り取られて、ホルマリン漬けにされて、どこかの変態のコレクションになるかもしれないんだよ」
彼の言っている事は多分正しいんだと思う。なのにその反面、無性に腹が立ってくる。
背も高く恵まれた体躯。誰をも虜にするだろう整った顔立ち。醸し出す雰囲気だけでαだと分かる。
──何の苦労もせずに、ぬくぬくと育ってきただろうお坊ちゃんに、俺の気持ちなんか分かるものか。
「変態オヤジの玩具にされようが、薬漬けにされようが構わない。俺には帰る所も行く所もない。分かるだろ? 身寄りのないΩが生きていくにはこの身体を使うしかない。あの男に仕事を紹介してもらって、それで金が貰えるなら何だってするつもりだったんだ!」
彼の手を振り払い、アンジュはスタスタと歩きだした。
「ちょっと! 待ってってば!」
だけどすぐに、後ろから追いかけてきた彼に肩を掴まれてしまう。
「なんだよ、放せよ! 関係ないだろ? もう放っとけよ!」
「放っとけないよ。ずっと見てたんだ。同じ所を行ったり来たりしてたでしょ? 危なっかしくて見てられなかった」
「何? お前、もしかしてストーカー? それともお前が俺を買ってくれるわけ?」
本気で言った訳ではなかった。ただ弾みで口が勝手に動いてしまっただけだった。
だけど、彼はアンジュの言葉を真面目に受け止めて、困った表情を浮かべる。
「ごめん……僕にはそれは出来ないんだ……その……まだ未成年だから……」
──やっぱりそうか……。
見た目の容姿は大人びて見えても、やはり最初息急いて走って来た時の第一印象は自分と同い年くらいか下に思えた。
「未成年って……何才なの?」
「18才……」
「年下? って言うか、高校生?」
「……そうだけど」
自分よりも年下の高校生に、危なっかしいだの、家に帰れだの心配されていたのかと思うと、何だか情けない思いが込み上げてきて、アンジュは自嘲の笑みを浮かべた。
「なんだ。俺、高校生のガキに心配してもらってたのか」
「ガキって……そう言う貴方は何才なの?」
「……19」
正直に答えると、彼は一瞬琥珀色の瞳を大きく瞠いて、可笑しそうに吹き出した。
「なんだ、1才しか違わないでしょ?」
「高校生と社会人じゃ、雲泥の差なんだよ!」
アンジュが言い返すと、今度は大きな声をあげて笑い出す。
「あはは、ムキになるところが可愛いね」
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