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運命の番(1)

 あれから一週間。  アンバーのおかげで、無事にクラブ『Liberty bell』で働く事になった。  店で働くΩ達は皆、ボーディングハウス(寄宿舎)形式の建物で暮らしている。  ダイニングやランドリールームなど共有スペース部分もあるけれど、部屋は個室なので問題はない。  なんと言っても、全員Ωなので何となく気持ちが楽だった。  アンジュの仕事は、アンバーの言った通り、簡単な事務や雑用などで店に出た事は一度もない。  最初に紹介されたマネージャーは、渋い顔をしていたけれど。 『彼は未成年なので。もし店に出すような事があったら、僕が訴えます。父や兄にも僕から伝えておきますので』  10歳以上も年上であるだろうマネージャーに対し、アンバーが臆する事なくキッパリとした態度で、そう言い切ると、マネージャーはもう何も言わなかった。 『安心して。僕、これでも弁護士目指してるから』  本気なのか冗談なのか、アーバンはそう言って、悪戯っぽく笑った。  しかし、ここの経営者代行をしているというアンバーの兄には、まだ一度も会った事がない。  12歳も年が離れている理由を、アンバーは『腹違いの兄弟だから』と言っていた。  そんな話を、初めて会ったばかりのアンジュにしてくれたアンバーとも、あれから会っていない……。 「あいつ……どうしているのかな」  部屋の窓から、雲の多い夕暮れの空に薄っすらと光る上弦の月を見上げながら無意識に呟いて、アンジュは慌てて首を横に振った。  あいつは、あの時路頭に迷いそうなΩをただ助けただけだ。 『Liberty bell』は、そういうΩを救済する為に運営している店だと言っていたし。  だから、仕事を紹介した後は、高校生の彼には、自分などもう関係のない人間なのだ。  このイーストシストで、いくつも高級クラブを経営している家の次男。弁護士を目指している将来有望な彼に、薄汚れたΩの男などが、これ以上関わってはいけない。と、アンジュは自分に言い聞かせていた。  

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