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運命の番(3)

 服を全部脱がされて、院長のベッドで身体中を弄られた。  一番嫌だったのは、行為の始まりの合図とも言えるキス。  院長の顔が一番近くに見えるから。  そして、院長の分厚い舌が、執拗に小さな咥内を犯していく。  そこから耳、首筋、胸、腹と、徐々に下へと移動して、まだ子供の小さな中心を口に含まれる。  気持ち悪い──最初はそう思ったのに。いつからだろう、燻るような小さな熱を身体の奥に覚え、それが段々と広がって、全身が熱くて堪らなくなるのを感じるようになったのは。  その時いつも思い出すのは、父の言葉だった。 『やっぱりΩの娼婦の子供は、同じように卑しい性から逃れられないのだな』  ──自分は卑しい性なのだ。だからこんな事をされて、気持ち良いと感じてしまう──と。  院長は、まだ硬く閉ざされている小さな蕾にも、その太い指を挿し入れた。最初は一本、そして二本と増やされて、中を掻き回されて。  アンジュが痛がると、『君が成長して発情期がきたら、ここは勝手に濡れてくるのにね』と嗤った。 『今でもこんなに私の指を締め付けているのに、どんな風になるんだろうね。ここに私のを挿れるのはその時のお楽しみにとっておくよ』  “その時”が来るのが怖かった。自分がどんな風になるのか、男の楔を打ち込まれ、どんな風に善がるのか。想像するだけで死にたくなった。  しかし、19歳の誕生日を迎えた今でも、アンジュには発情期がきていない。  おかげで院長と最後の一線を越えるのは、避ける事ができた。  いくらお気に入りでも、少年から青年へと成長したアンジュに、院長も興味は薄れている。だからアンジュにとっては無事に施設を出る事ができて、身体を売る事もなく、『Liberty bell』で働ける今の状況は、幸福だと言えるだろう。  そして、出来る事ならこのまま一生、発情期がこなければいいのに……と思う。  *  店がオープンして、キャスト達は次々に店に出て行った。 「アンジュ、ちょっといいか?」  誰もいなくなった控室のテーブルの上を片付けて、掃除をしていると後ろからマネージャーに声をかけられた。 「はい」  振り向くと、マネージャーの隣に見た事のない男が立っていた。  銀色の長い髪を掻き上げながら、男はアンジュの目の前まで歩み寄る。  背が高く、目の前に立たれると、威圧感が凄い。  高級そうなスーツを着ていても、鍛えられた筋肉質な身体だという事が分かる。 「君がアンジュ?」  見下ろしてくる瞳は灰青色で、冷たい感じがする。だけど声は優しい低音だった。 「はい」  アンジュが視線を合わせると、彼はふわりと微笑んだ。 「私は、イアン・ティカアニ。この店のオーナで、アーロンの兄だ」 「え、あっ、初めまし……て……」  たとえ、アンバーに紹介してもらったとしても、無理を言って雇ってもらった店のオーナーなのだ。慌てて挨拶をしようとしたが、言葉は途中で止まってしまった。  イアンがアンジュの頬を両手で優しく包んだのだ。 「ほぅ、これは美しいね。仄かに漂うこの甘い花の香りも好みだ」 「あ、あの……」  ──『毎月一度、番になるΩを探しに来るんだ』  さっき聞いたばかりの言葉が、頭の中でリフレインする。 (まさか……)  だけど、自分にそんな白羽の矢が立つとは思わなかった。  イアンに見つめられて、アンジュはフリーズしたように動けなくなった。  硬く結んだ唇に柔らかくキスを落とされて、イアンが耳元で囁いた言葉に全身が戦慄く。 「気に入った。今度のルナティック(狂気)の夜の相手は君だ」  

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