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運命の番(5)
「あの……アーロン様……」
メイドが傍でオロオロとしているのが視界の隅に映っている。
だけどアンバーは、力を緩めない。
「アンジュの部屋はどこ?」
「二階の東の部屋です」
「分かった。僕が案内するから、もう行って良いよ」
「でも……」
「いいから!」
肩を掴んでいる力は強くても声は穏やかだったのに、最後の言葉はさすがに苛立ちを隠せずに荒々しく言い放った。
「来て」
アンバーに押し込められるようにして部屋に入ると、すぐに背後でドアが閉められる。
彼が何をそんなに怒っているのか、アンジュには分からなかった。
「せっかく店に出なくても良いように頼んだのに、どうして自分で身体を売るような事をするの?」
アンバーに詰め寄られて、背中にドアがぶつかった。
「身体を売ったつもりはないよ」
「同じ事なんだよ。ここで番になるっていう事は、子供を孕む道具として一生を送るって事なんだよ」
──子供を孕む道具?
「どういう事?」
不安そうに瞳を揺らしたアンジュに気付き、アンバーはさり気なく距離を取った。
そして「僕たちの一族は……」と、そこまで言って、一旦言葉を区切る。
「……何だよ、勿体ぶらずに早く言えよ」
「別に勿体付けてる訳じゃないけど……」
「じゃあ早く言えよ」
アンジュに急かされて、アンバーは仕方なく言葉を続けた。
「僕達の一族は、血統が絶えそうなんだ」
「何それ、絶滅危惧種みたいだな」
アンジュの返した言葉に、アンバーは薄っすらと自嘲のような笑みを浮かべた。
「当たらずといえども遠からず……いや、殆ど当たってる」
「でも、血族が絶えるなんてよくある話なのに。そんなに大切なのか」
アンバーは、静かに頷いた。
「本当に、一族の中でも純血なのは父や兄の他に、数人しかいないんだ」
「アンバーも純血なんだろ?」
「俺は……ハイブリッド(混血)」
アンバーの表情が微かに曇る。イアンとは腹違いの兄弟だからか……? そう考えたアンジュは慌てて言葉を探した。
「でもさ、俺と番っても、ハイブリッドになるんじゃないのか?」
単純に考えると、そうなる。アンジュはウエストシスト出身の母とイーストシスト出身の父の間に生まれた。元々の人種が違う上にアンジュ自身が混血なのだ。
「……人間のΩと番うと、より強く頭の良いα性を持つ子供が生まれるんだ」
「……え?」
αとΩの間に生まれる子供は、確かにα性を持つ確率が高いけれど、そんなに都合のいい遺伝があるものか。
そう思ったけれど、それよりもアンジュは他の言葉が気になった。
──『“人間”のΩと番うと……』
疑問に満ちた表情を浮かべるアンジュに、アンバーは更に謎の言葉を口にする。
「ねえ、僕達が人間じゃなかったら……アンジュはどうする?」
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