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運命の番(6)
部屋の間接照明のせいなのか、アンバーの瞳が金色に光って見えた。
ゾクッと背筋が戦慄く。
それは、怖いという気持ちからではなく、もっと違う何か、初めて感じる感覚で、アンジュはごくりと生唾を飲み込んだ。
「……なーんてね。そんな訳ないけど」
アンバーが冗談ぽくそう言って笑うと、張り詰めていた部屋の空気が緩み、アンジュは自分が妙に緊張していた事に気付いた。
「なんだよ……冗談やめろよ」
「とにかく、兄さんと番うのは僕は反対。アンジュは僕が先に見つけたんだから」
アンバーの言葉に一瞬、顔が熱くなる。“嬉しい”そんな気持ちが胸を締め付けた。
だけど、これも彼特有の冗談なのかもしれない。
よく言うよ。あれ以来俺のことなんか忘れていたくせに……と、アンジュは思い直した。
「番の事なら心配しなくていいよ。俺、まだ発情期はきた事がないから」
番になる為には、発情してαと繋がっている時に、うなじを噛まれなくてはならない。
発情期の経験がないアンジュは、まだ番う事は出来ないのだ。
「そうなの?」と、アンバーの表情がパッと明るくなった。
「じゃあ、満月の夜までに発情期がこなければ、兄さんもきっと諦めるよ」
「そしたら店に戻れる?」
今までに、イアンに選ばれた人達は店に戻って来なかった。だから、その事だけが気にかかる。
「発情期が来なければ、何もできないから。でも、満月の夜だけは、絶対に兄さんに近づかないようにして」
──満月の夜
「なんで満月の夜? 何か意味があるのか?」
イアンが言っていた“ルナティックの夜”とは、満月の夜の事なのだろうか。
「僕ら一族は、満月の夜に番うというのが、習わしなんだ」
──習わし……。
じゃあ、そもそも満月の夜に、たまたま発情したΩとしか番えないという事か。
そう考えると、少し気持ちが楽になった。
「じゃあ、今夜はゆっくり休んで。明日の朝は一緒に朝食を、食べれるね」
「そ……う……」
──そうだな。また明日な。
そう言おうとしたのに、途中で言葉は途切れた。
アンバーが身を屈め、琥珀色の瞳と目線が同じになった途端、ドクドクと苦しいほどに胸が高鳴り、切なく締め付ける。
この瞳に見つめられると、身体の奥底からジワジワと熱が広がっていく。
アンバーに触って欲しい。その熱ごと、この身体抱きしめて欲しい。
──あぁ……やっぱり自分は浅ましい。
ゆっくり目を閉じると、柔らかいものが唇に触れ、静かなリップ音を立てて、すぐに離れてゆく。
「おやすみ、アンジュ」
「……おやすみ」
人懐っこい笑みを浮かべ、アーバンはドアの向こうに消えた。
──満月まで、1週間。
形はどうあれ、同じ屋根の下で一緒に暮らせる。
イアンとの関係への不安より、今はその嬉しさの方が心の大半を占めていた。
アンジュは、生まれて初めて“恋”というものを知ったのだ。
──しかし、アンバーが部屋から出て行くのを、物陰から見ている者がいた。
アンジュの部屋を訪れようとしていたイアンだ。
彼は静かに弟の背中を見送ると、アンジュの部屋の前を素通りし、自室に戻っていった。
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