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第3話
初めて俺を拒絶する目の人に会った。一度見ただけで俺を見なくなったとも綺麗な男の子 、河東凌一。
恵まれた環境に生まれ、父は病院の院長、母は女医。兄弟は男ばかりで、その末っ子が男性オメガとして生まれた俺、剣崎薫。
男らしいオメガだが、兄弟も両親も容姿そっちのけで、女扱いし可愛がられて育った。流石に「フリフリのスカート」まで着せられそうになった時は、全力で拒否したが。俺は誰からも好かれ、可愛がられてきたのに……初対面から拒絶されるなんてショックだった。
そして…言わずとも互いが、容姿にコンプレックスを持っていると分かった。
俺が高校の時、襲ってきた男 を強姦した。パニックになった俺は、襲ってきた男を逆に押し倒していた。気付いた時、相手は気絶していて恐ろしくなった俺は逃げ出した。
それから普段の薬から新薬を使うようになった。俺は苦しい「被験者」なんて御免だった。凌一が会いに来てくれるなら、辛い発情期だって耐えられる。薬が合わなくても、オメガじゃない凌一が褒めてくれた剣崎薫であり続けたかった。
真っ直ぐ向けられる強い視線は、容姿じゃなく俺を視ていた。汚してはいけない綺麗な瞳。汚いものなんて見ないで……綺麗なままでいて俺が護るから……
だから凌一を汚そうとする奴が許せない。本当は俺自身が欲望をぶつけ、無茶苦茶にしてやりたいと凌一を汚そうとする奴等を「狩り」ながらずっと思っていた。
「凌…一…あっ! もっと触ってイッ! あぁ!」
何度目かの欲望を手に吐き出した。赤くなって痛む局部は、治まる気配がない。絶え間ない欲求は躰を熱くさせ、肉体と精神が疲れ果てるまで続く。
こんな姿……凌一に見せたくない……
朦朧とする意識の中、妄想の凌一の姿を追って部屋のドアをぼんやり眺めていた。
大学が忙しく、あれから薫の様子を見に来れなかった。久しぶりに剣崎家の立派な門扉の前にいた。インターホンを押したが応答がない。仕方なく、圭子さんから預かった鍵を取り出し施錠を解除した。玄関のドアを開け薫の部屋に向かった。その部屋のドアが少し開いて驚いた俺は中に入った。
体液の匂いに混ざる甘い花のような匂いに思わず鼻を覆った。
なんだこれ……
いつも綺麗な薫の部屋とは思えない酷い有様に俺は顔を顰めた。ベッドに薫の姿がなく、シャワーユニットに灯りが点いていた。嫌な予感がした俺はそのドアを開けた。トイレの便座に顔を突っ込んだまま動かない薫の肩を掴んだ。
「おい! 薫!」
便座から引き離し安否を確認した。薫の状態は悪く、顔面蒼白で腕には数カ所噛んだ痕があった。
「こんなの…ずっと一人で耐えてきたのか?」
薫をベッドに運び、応急処置を済ませた。顔色の悪い薫の側に座り、長い前髪を梳いて頬に触れた。荒れた唇を親指で触れた時、微かに唇が動く。
「……薫?」
薫の虚ろな瞳が俺を捉え、不安の色を浮かべた。
「なんで……」
「それはこっちが聞きたい」
「見んな! 出てけ! 出てってくれ!」
「なんでそんなに拒むんだ!」
薫は頭まで布団を被り俺を見ようとしない。その布団を無理矢理剥ぎ取り、まだ抵抗する薫を俺は抱き寄せた。
「はっ放せって!」
「心配……掛けんな……」
「……凌…一?」
「無事で良かった……」
抵抗しなくなった薫を強く抱きしめ、まだ冷たい躰を温めるように背中を擦った。
「ずっと辛かったんだろ? 合わない薬なんて止めろって。今度は俺が護るから……」
「凌…一……うぅっふぇ……」
俺に泣いて縋る薫をずっと抱きしめていた。
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