2 / 17

第2話

──熱い。 発熱しているわけでもないのに、体が燃えるように熱い。そんな経験は初めてで、七音はこれが発情期かとぼんやりした頭で考える。 発熱している時なら渇きを癒したいと水を求めるだろう。だが今欲しいのは喉を潤すものではない。下半身にわだかまる熱を発散させてくれるものだ。 服を脱ぎたくなった七音が言うことを聞かない体をベッドの上で悶えさせていると、ノックもなく部屋の扉が開く。 「間違いないな。移送する」 部屋に押し入ってきたのは教官たちだ。バース管理局の職員である教官たちは、熱センサーにより七音たちオメガの発情を監視していた。 これでここの生活ともお別れかと思うと、ほんの少しの寂寥が押そう。だがそう言ってもいられないほど熱くてたまらなかった。 ぷつり。意識が途切れる。最後に二の腕に刺された注射針を見た。 ──たぶん。きっと…………その、せい……だ。 体の熱さも忘れるほどの深い眠りが七音を襲った。 *** あ、あ、ああ──……っ、ん、ん……。 薄く目を開けば視界が揺れていた。ギシギシという音と連動して視界が揺れ、ひっきりなしに甘く蕩けた声が耳に届く。 どうやら俯せに寝ているらしい。見える景色からそう判断した七音は、背中に触れた感触にぞわりと肌を粟立てる。 そこでようやく自分が裸であることに気づき、そして誰かが背後にいることを悟った。 ──息遣いが聞こえる。 はっ、はっと弾む息と、それに合わせて肌を擦る何か。それが肌に触れるたびにぞわりぞわりとした感覚が全身に広がっていく。 ──誰? ここはどこ? 振り返りたいのに体がいうことをきかない。どうやっても体に力が入らなくて、腕を上げることすらできなかった。 「あ──っ、ぅん、ん……」 声を出そうとして分かった。さっきからひっきりなしにきこえてくる蕩けた声が七尾の喉から発せられていることに。 ──嘘だ。なんで? 混乱している七音の耳元に荒い息遣いが近づいてきた。そしてすんと香りを確かめるように息を吸ったその何者かは、七音の首筋に噛みついてくる。 「ああ──っ、やああ!」 焼かれたような痛みに襲われた七音が背を反らす。動かないはずの体が暴れるのを、何者かがその体と牙で抑え込む。ぎりぎりと歯の喰い込む感触に悶えていると、更に熱いものが七音の体内にあふれ出した。 「や、や……あ、嫌、あ──っ!」 熱い、熱い、熱い。 暴れる気力もなくなった頃、ずるりと体内から何かが出ていくのを感じた。と同時に七音を抑え込んでいた何者かも身を引く。 シーツの上に寝ていた体が、更に深く深く沈みこんでいくようだった。どうにもできない倦怠感に襲われるまま、七音は意識を手放した。

ともだちにシェアしよう!