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第6話

「行こう」 「えっ、ちょっと、降ろしてください!」 「遅くなってしまったからこのまま行こう」 それが本当なのか口実なのか分からない。ヒュドゥカが行く先に道が開かれる。そうして獣人たちは驚いた顔で七音を見上げた。そんな中をヒュドゥカは平然と歩いていく。 ようやく七音が降ろされたのは、紅い絨毯敷きの個室だった。六畳ほどの部屋に大きな椅子が二脚。その椅子が向いているのは、大掛かりなスタジアムだった。 下層部は簡素な椅子が置かれているだけだが、上層部は七音たちがいるのと同じ個室になっているようだ。 ふたりが席に落ち着くと、ほどなくして試合が始まった。 互いの振り下ろした剣が重なると、キンと鈍い金属音が響く。それを煽っているのか、応援しているのか、観客席からは大きな声が上がった。 「あれは……本物の剣なのですか?」 「そうだ。実際の戦闘だと思って戦うんだ。そうして使い物になると思われれば、王国騎士団に引き抜かれる。立身出世を願う才気溢れる者たちがしのぎを削る場だ」 それは危なくないのか。本物の剣ということは肌に当たれば傷もつくだろう。七音がはらはらして見守った第一試合は、片方が剣を落としたところで決着となった。 ふうと胸を撫でおろしていると、次の試合では片方が腕を切られて血を流し、膝をつく。 「大丈夫か?」 「…………はい。ですが、とても見ていられません」 試合が終わるまで帰れないのなら、目を瞑って過ごそうか。そう思っているとヒュドゥカの隣に来るよう呼ばれる。 「繊細なのだな。怖がらせて悪かった」 そう言うとヒュドゥカの膝に抱きあげられ、大きな手が七音の後頭部を押さえた。七音は闘技場に背を向けた形でヒュドゥカの肩に縋りつく格好になる。 たちまちまた七音の胸は躍りだす。ヒュドゥカのやわらかな毛に包まれるのは二度目だが、あの時より一層落ち着かない。どうか動揺がヒュドゥカに伝わりませんようにと、七音は心の内で願う。 「俺は最後まで見届けなければならん。待っていてくれるか?」 「もちろんです……!」 何らかのお役目で来ているのだとすれば、七音が邪魔するわけにはいかない。だとしたらそれまでずっとこの体勢でいるのだろうか。 どうしてこれほどまでに落ち着かず、また嬉しくなるのか、七音は答えを持たないままヒュドゥカのもふもふとした毛に埋もれていた。

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